税務調査を録音することはできるか?
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
税務調査官が「2人」で来る理由とは?
今回からは税務調査の切り抜け方をお伝えしたいと思います。実際の税務調査が「どのように行われるのか」「何が問題視されるのか」そして「どのように切り抜けたらよいのか」、その具体策をご説明していきましょう。
まず税務調査が行われるタイミングですが、税務署が指定してくるのは事前通知の電話があった日から2〜3週間後くらいのことが多いようです。税務署のほうもほかに複数の調査案件を抱えていますので、それらすべての日程を調整しながら決定する都合もあります。そのため、ある程度の日程的な余裕が必要になります。
また、税務署からの連絡で「今週中に行きたい」というような、近い日程を指定してくることはまずありませんし、仮にあったとしてもこちらから「待った」をかけることはできます。
私たち税理士のほうでも、もう一度申告内容をお客さまに確認して、漏れがないかどうか見直す時間が必要ですし、不明な点があればこちらも調査を進めなければなりません。そうなると、どうしても2〜3週間くらいの期間は必要となります。その意味からいっても、連絡が入ってから2〜3週間という期間は、双方に必要な時間が与えられているといってもよいのかもしれません。
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さて、税務調査の事前連絡から2週間が経過して、いよいよ「本番」の日がやってきます。まず、朝10時ごろ玄関の呼び鈴が鳴り、ドアを開けるとそこには2人の調査官が立っています。一般的に税務調査は、該当案件の担当調査官と、補佐にあたる調査官の2人によって行われます。
なぜ、2人なのでしょうか? それには理由があります。相続税の調査の場合、亡くなった方の生活状況や病歴、人間関係など、極めてプライベートな部分まで質問が及ぶこともあり、相続人とのトラブルを回避するために必ず2人体制で行われます。
また、相続人の話をヒアリングする際、1人では質問に対する答えを聞き取るだけで手一杯になってしまい、記録まで手が回りません。通帳や証券類など参考資料となりそうなものが出てきたとき、コピーが必要になりますが、これも担当調査官1人ではとうてい手が回りません。ちなみに、相続税の税務調査は個人のお宅で行うことが多いので、調査官が小型のコピー機を持ってきたり、デジカメで写真を撮ってコピー代わりにしたりすることもあります。
そして、ここが重要なのですが、もう1人の調査官には、質問に答えるときの相続人の顔の表情をうかがうという役割もあります。
人は本当のことをいうときとウソをつくときでは、顔の表情が違うものです。ドラマや映画でよく見られるように、ウソをつくときは表情がうつろになったり、目が泳いだりしがちなのです。
実際の税務調査では、質問を受けた相続人の目線が、隠しておきたいもののほうにとっさに向いてしまうということもあります。調査官の1人が質問しているときに、もう1人は相続人の様子をうかがい、答えている内容が本当のことなのかウソなのかを見極めようとしているのです。
もちろん警察の取り調べのように、調査官が相続人を問い詰めるというようなものではありません。ごく自然に、何気ない質問でヒアリングをしてきます。そのなかで、少しでも相続人に変化が表れないかを見ているのです。何気ないふうを装ってはいても、調査官は「しっかりと見ている」ことを肝に銘じておいてください。
また調査には「さっきはこういった」「いやそんなことはいっていない」など、いった、いわないの水掛け論がつきものです。付き添い役の人間がいれば、そこをうまく取り仕切ってくれるだろうという思惑もあるのかもしれません。
相続財産の金額が大きくなれば「上席」調査官が担当
ちなみに、税務調査にやってくる調査官の肩書は、相続財産額や内容で多少異なるようです。相続財産1億円前後の税務調査であれば、担当するのはおおむねヒラの調査官ですが、金額が大きくなると「上席」という肩書を持つ調査官が担当します。
性別で見ると男性のほうが多いですが、最近は女性もかなり増えてきました。かつては税務調査の世界は完璧な男性社会だったのですが、ここ10年くらいで大きく様変わりしています。今や女性調査官は全体の約2割を占めるまでになり、もうすぐ3割に迫ろうとしています。
さて、上席の上にいるのが部門トップの「統括官」という人です。この人たちは調査官が担当した税務調査に関して、納税者側から反論があったり、上席では対応しきれなくなったりしたときなどにも出てきますが、調査方針などの一義的な判断権は、この統括官にあります。統括官以上が「管理職」と称されており、税務署側の論理をしっかり示さなければならないときにさっそうとやってくるわけです。
税務署内ではどのような準備調査をしているか
ここで、税務調査が行われるまでに税務署内部ではどのような準備をしているかについて、みておきましょう。
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人が亡くなると、死亡の事実を知った日から7日以内に住所地の市区町村長に死亡届を出さなければなりません。そして、死亡届を受理した市区町村長は、その死亡届に記載された事項を受理した日の属する月の翌月末日までに、住所地を管轄する税務署長へ通知しなければならないことになっています。つまり、税務署には管轄内の納税者の死亡に関する情報が毎月自動的に入る仕組みになっているのです。
納税者の死亡情報が市区町村長から通知されると、税務署内では独自の準備調査が始まります。
まずは住所地の市区町村から固定資産の名寄帳を取り寄せ、法務局からは登記情報を取り寄せて、どこにどのような不動産を持っているかをチェックします。
次に過去の確定申告書や税務署内の法定調書などから亡くなった方の財産につながる情報を収集します。会社の経営者であれば、法人税の申告書もチェックします。会社の株式を保有していたか、会社への貸付金などがなかったか、会社からはどれくらいの役員報酬をもらっていたのか、そんな情報が法人税の申告書から確認することができます。
ブログやフェイスブック、インスタグラムなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)からも情報を収集しています。さすがに亡くなった方が高齢の場合、ご自身がSNSをやられていたというケースは少ないかもしれませんが、相続人である子どもがSNSに写真などをアップしていることも考えられます。「高級店○○で食事をしてきました!」「海外の○○に行ってきました!」といったコメントとともに写真が載っていたりすると、税務署はそれらの情報から、金銭感覚や性格などを推測しているのです。自慢ネタの公開は考えものかもしれません。
貴金属店や高級外車の販売店、百貨店の外商などの顧客リストも税務署内では作っていると聞きます。亡くなった方が税務署内にある店の顧客リストに載っている人であれば、生前にどこで何を購入しているか把握できるので、申告書にそれらの財産が反映されているかどうかをチェックすることができます。
そして、金融機関へも文書商会を行っています。亡くなった方の名義はもちろん、亡くなった方の配偶者や子ども、さらには孫の名義の預金についても、相続開始日の残高と過去の預金の動きを確認します。年齢や職業にふさわしい金額か、直前に大きな入出金がないかなどをチェックして、疑わしいと思われるなかから調査対象者を選定しています。
午前中はヒアリング、午後は現物の確認をする
税務調査の当日、通常は朝10時にスタートして、正午時から1時間の休憩時間をはさんで午後4時ごろに終わります。なぜこの時刻に終わるかというと、調査官たちはその日のうちに調査結果を報告しなければならないからです。税務署に戻って上司に報告するには、午後4時には一通りの調査が終わっている必要があるのです。
私のほうからも、最初に「午後4時には終えるようにしてください」とお願いするようにしているので、夕方遅くまでかかるということはありません(ただし、資料調査課の調査はそうはいきませんので気を付けてください)。
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調査官の真剣度は時期によって違うことがあり、4月以降の税務調査であれば、調査官のテンションが若干下がるため、まれに午前中だけで終了するというケースもあります。税務調査は、午前中にヒアリング、午後からヒアリングを基に通帳や証券類など、現物の確認という形を取ることがほとんどです。
たいていの調査官は紳士的ですから、それほど怖い思いをすることはないはずですが、多くの人にとって初めての経験なので「何を聞かれるのか心配で仕方ない」という声がよく聞かれます。映画やドラマで繰り返し描かれる、マルサのイメージで税務調査をとらえているためかもしれません。
また、怖いものではないにせよ、調査官の繰り出す質問に対して、「こういうふうに答えたほうがいい」とか「こんな答え方をすると、調査官に突っ込まれる材料を与えるようなものだからやめたほうがいい」といったことがあるのも事実です。具体的にどんな質問があるのか、その質問が意図しているものはどんなものなのか、どう答えるのが適切かを理解している、いないでは、安心度が違ってきます。
服部 誠
税理士法人レガート 代表社員・税理士
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