前回は、 株式投資における「分散投資」の具体的なメリットを取り上げました。今回は、資産配分(アセット・アロケーション)について考察します。

従来、ポートフォリオの中心は「伝統的資産」だったが…

分散投資を実践するに当たっては、投資対象となる資産(アセットクラス)や、それら資産への配分比率をどのように決めればいいのでしょうか。

 

ここでは、その資産配分(アセット・アロケーション)について考えていくことにします。

 

まず、この資産配分の重要性を語る際によく引用されるのが、1986年にゲイリー・ブリンソンらによって発表された「ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因」という論文です。この論文では、長期運用においてポートフォリオの価格変動の約9割は資産配分によって決定されると結論付けられており、また、個別銘柄の選択やマーケット・タイミングの効果は大きくなかったということも指摘されています。

 

なお、ポートフォリオというのは、金融商品の組み合わせのことをいい、アセット・アロケーションと似たような意味合いになります。

 

両者の違いとしては、アセット・アロケーションは「国内株式」や「外国債券」などの大まかな資産配分のことを指すのに対し、ポートフォリオは「MAXIS トピックス ETF」や「バンガード・トータル・インターナショナル債券 ETF」などの具体的な商品の組み合わせのことを指します。

 

そして、この論文で分析対象となったのは、91の大型年金基金(1974~1983年)でしたが、それらを平均した資産配分は、株式63%、債券23%、現金14%となっていました。

 

ここからも分かるように、従来は国内外の株式や債券といった伝統的資産がポートフォリオの中心となっていたのです。

 

例えば、1970年代における米国の大学基金の平均的資産配分は、株式が6割、債券が2~3割、現金や不動産が1~2割というものでした。それが、1970年代の後半からはオルタナティブ投資が始まり、徐々にその比率が上昇していきました。

 

このオルタナティブ投資というのは、オルタナティブ(alternative)に「代替の」、「他に取り得る」などといった意味があるように、株式や債券といった伝統的資産の代替となるもの、つまり伝統的資産以外の資産へ投資することを指します。

 

オルタナティブ投資には具体的に、先物取引やオプション取引などのデリバティブ(金融派生商品)といわれるものや、不動産、ヘッジファンド、プライベート・エクイティなどといったものがあります。

 

そして、米国大学基金の平均的資産配分は、2007年にはオルタナティブ投資が全体の約2割を占めていましたが、そこから1年で約4割にまで増加し、現在では約5割を占めるまでに至っているのです。

 

オルタナティブ投資がここまで拡大してきた背景には、より高いリターンを求めてということもありますが、国内株式や外国債券などといった各伝統的資産の値動きが似通ってきた、つまり値動きの連動性が高まってきたということも挙げられます。

 

この値動きの連動性のことを相関性といいますが、分散投資ではできるだけ相関性の弱い資産同士を組み合わせることが大事になってきます。

 

前回述べたように、分散投資を行うことで、「期待リターンはそのままにリスクを下げることができる」という分散効果を享受することができます。

 

ただ、この分散効果を十分に得るためには、相関性の低い資産同士を組み合わせる必要があるのです。そういったこともあり、伝統的資産との相関性が弱い、オルタナティブ投資の存在感が高まってきたというわけです。

オルタナティブ投資比率が高い「米国大学基金」

さて、分散投資について、米国の大学基金を例に挙げて書いてきましたが、実は米国の大学基金は世界でも先進的な機関投資家といわれており、過去20年以上にわたって素晴らしい運用実績を上げているのです。

 

例えば、少し古いデータにはなりますが、2014 年までの過去20年間の年平均リターンが、イェール大学では13.9%、ハーバード大学では12.3%となっています。

 

大学基金のことを英語で「University endowment」ということから、これら米国大学基金の運用戦略は「エンダウメント投資戦略」と呼ばれます。

 

中でも、ハーバード大学の大学基金の運用資産は約4兆円と、全米の大学基金の中で最大規模となっていますが、まずはそのポートフォリオの中身を見ていきたいと思います。

 

ハーバード大学の大学基金では、2017年からは資産配分が開示されていないのですが、最後に開示された2016年度(2016年6月末時点)の資産配分は次のようになっています。

 

●株式:29%(米国株式:10.5%、外国株式:7.0%、新興国株式:11.5%)

●債券:12.5%(米国債券:9.0%、外国債券:1.0%、インフレ連動債券:2.0%、ハイ・イールド債:0.5%)

● オルタナティブ投資(金融資産):34%(絶対収益型(ヘッジファンド):14%、プライベート・エクイティ:20%)

●オルタナティブ投資(実物資産):24.5%(不動産:14.5%、商品:10%)

 

また、イェール大学の大学基金の運用資産は約3兆円となっていますが、その2017 年度(2017 年6月末時点)の資産配分は次のようになっています。

 

●株式:19.1%(米国株式:3.9%、外国株式:15.2%)

●債券:4.6%、現金:1.2%

● オルタナティブ投資(金融資産):56.4%(絶対収益型(ヘッジファンド):25.1%、レバレッジド・バイアウト:14.2%、ベンチャー・キャピタル:17.1%)

●オルタナティブ投資(実物資産):18.7%(不動産:10.9%、天然資源:7.8%)

 

このように、エンダウメント投資戦略では、ポートフォリオに占めるオルタナティブ投資の割合が、ハーバード大学では58.5%、イェール大学では75.1%と非常に高くなっていることが分かります。

 

なお、エンダウメント投資戦略では、どの資産にどう配分するかというターゲット・ポートフォリオが毎年決定されています。

 

このターゲット・ポートフォリオは、各資産のリスク量や相関度合いに基づいて決定されるのですが、どこかの時点で大きく変更されるということはほとんどなく、見直しは原則として年に一度となっているのです。

 

 

小林 武文

精神科医・投資コンサルタント

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