LTCMAsによる運用資金100万円のポートフォリオの例
今回は、米国の投資銀行であるJPモルガンが公表している、「長期マーケット予測(Long-term Capital Market Assumptions:LTCMAs)」から、2018年の期待リターンを用いて、ポートフォリオの期待リターンを算出していきます。
[図表]長期マーケット予測
ここでは「運用資金100万円」のポートフォリオを例に見ていきます。まず、連載第13回でご紹介した「運用資金100万円」のポートフォリオを再掲しておきます。
●現金:50万円(50%)
●バンガード・トータル・ワールド・ストックETF(VT):35万円(35%)
●バンガード・FTSE・エマージング・マーケッツETF(VWO):15万円(15%)
ここで、ポートフォリオの100%が「VT」であったとすると、世界株式の期待リターンである4.5%が、ポートフォリオ全体の期待リターンということになります。
ただ、実際には「VT」の構成比率は35%であるため、4.5%の35%分、すなわち1.575%(=4.5×0.35)が「VT」のポートフォリオに貢献する期待リターンとなります。
また、「VWO」についても、新興国株式の期待リターンである、6.5%を当てはめて同様に計算すると、「VWO」がポートフォリオに貢献する期待リターンは、0.975%(=6.5×0.15)となります。
そして、「現金」の期待リターンは0%ですので、VT・VWO・現金の構成比率に応じた期待リターンを全て足し合わせた、2.55%が「運用資金100万円」のポートフォリオの期待リターンということになります。
やはり、ポートフォリオの半分を「現金」として待機させていることもあり、ポートフォリオの期待リターンがどうしても抑えられてしまうことは否めません。
ですが、ポートフォリオの半分を「現金」としていることにより、仮に相場が暴落してしまった際には、その被害も半分に抑えられるということを忘れてはいけません。
買い増しを行った場合の期待リターンは・・・
さらに、第8回でも書いたように、現金比率を高めておくことは、最大の防御策になると同時に、機が熟した際に攻めへと転じるための大きなタネ銭ともなります。
つまり、相場が大きく下落している時に、この「現金」を利用して、ETFなどを買い増すことができるのです。
そして、この買い増しについては、ある程度の方針をあらかじめ決めておくことが望
ましいでしょう。
例えば、世界株式を例にとってみます。世界株式の期待リターンは4.5%、年率ボラティリティは19.75%でした。
そのため、市場の価格変動が正規分布に従うとすると、世界株式の年間収益率は約95%の確率で、マイナス35%からプラス44%の間に収まることになります。
また、リーマン・ショックのような世界的な金融危機の際には、6~7割程度の下落も予想されます。
そうしたことを踏まえると、買い増し方針の一例として、次のようなものが挙げられます。
それは、現金が50万円であったとすると、その15%に当たる7.5万円ずつを、自身の買い値から10%下落するごとに買い増していくというものです。
この手法に従うと、相場が買い値から30%下落した場合には、当初の「現金」のうち45%を用いて、ETFなどを買い増していることになります。
もちろん、これは一例に過ぎず、かなり保守的な買い増し方針でもあります。
より優れた買い増しの手法もあるでしょうし、もっとアグレッシブに買い増していくことも考えられます。
なお、この買い増した分に関しては、相場が元の水準にまで回復したら売却するなど、自由に運用してよいでしょう。
では、ここで示した買い増し方針に従った場合の、ポートフォリオの期待リターンについて、二通りのものを見てみます。
まずは、買い値から10%下落して買い増しを行い、その年のうちに元の水準を回復して、買い増し分を全て売却した場合です。
詳しい計算方法は割愛しますが、この場合には0.75%のリターンが上乗せされることになります。
次は、買い値から20%下落して二度の買い増しを行い、その年のうちに元の水準を回復して、買い増し分を全て売却した場合です。
この場合には計算すると、2.25%のリターンが上乗せされることになります。
初めに示した「運用資金100万円」のポートフォリオでいえば、前者の場合ではポートフォリオの期待リターンが3.3%(=2.55+0.75)、後者の場合では4.8%(=2.55+2.25)になるというわけです。
このように、下落率が大きくなればなるほど、ポートフォリオの期待リターンは高まることになります。
さらに、買い増し分を元の水準を回復した後も売却せずに保有し続ければ、さらなる上昇を期待することもできるのです。
さて、期待リターンについて念のため、最後に一つだけ付記しておきます。
それは、例えば期待リターンが4.5%であるといっても、毎年コンスタントに4.5%前後のリターンが期待できるわけではないということです。
リターンというのは、年によってマイナスになったり、大きくプラスになったりと、かなりバラつきの大きいものだからです。
ですから、普段から期待リターンを意識するということはほとんどないのです。
ここでは、期待リターンというのがよく使われる用語でもあるため触れておきましたが、そういったことについては留意しておいていただければと思います。