期待リターンはそのまま、リスクは下げられる!?
実際に、株式投資を行う際には、個別銘柄に投資すればいいのか、それとも株価指数のような幅広い銘柄に分散された商品を購入すればいいのかは悩ましいところです。
実は、このように少数の銘柄に「集中投資」すべきか、幅広く「分散投資」をすべきかは意見の分かれるところでもあるのですが、どちらにもメリットとデメリットがあるので、どちらがよいかは人によっても異なります。
ですから、ここでは分散投資と集中投資の特長について見ていきたいと思います。
一般的に投資の世界では、「卵は一つのカゴに盛るな」という相場格言があるように、分散投資を行うことが推奨されます。
ここで、一口に分散投資といっても、広い意味での分散投資には、「投資対象」の分散、「投資戦略」の分散、「投資タイミング」の分散などといった意味が含まれます。ただ、単に分散投資といった場合には、一般に「投資対象」の分散のことを指しますので、これについてまずは触れていきます。
この「投資対象」の分散というのは具体的には、複数の個別銘柄を保有したり、株式だけでなく、債券や不動産、商品など他の金融商品を組み合わせたりすることです。
また、国内だけでなく海外の資産を加えたり、円建てだけでなくドル建てなどの資産を加えて、通貨分散により為替変動リスクを低減したりすることも含まれます。
なお、こういった国内株式や外国債券、REIT、商品など、投資対象の資産として分類されたものを、アセットクラス(資産クラス)といいます。
そして、分散投資の有用性は、1990年にノーベル経済学賞を受賞した米国のハリー・マーコビッツによる「平均・分散アプローチ」などを含む、現代ポートフォリオ理論(MPT:Modern Portfolio Theory)によって示されています。
これは、分散投資をすることで、「期待リターンはそのままにリスクを下げることが
できる(分散効果)」というもので、これこそが分散投資が推奨される大きな根拠となっているのです。
「分散投資は無知に対するリスクヘッジだ」
参考までにですが、日本の公的年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も現在、概ね国内株式25%、国内債券35%、外国株式25%、外国債券15%といった割合で分散投資を行っています。
一方で、世界的に著名な投資家であるウォーレン・バフェットは、分散投資に対して次のようなことをいっています。
「分散投資は無知に対するリスクヘッジだ」
「自分の行っていることを理解できている者にとっては、分散投資はほとんど意味がない」
ただ、そうはいいつつも、バフェットは、中途半端な勉強や研究で個別銘柄への投資に手を出すくらいなら、分散投資することを勧めています。
実際にバフェットは、2014年に自身が会長兼CEOを務めるバークシャー・ハサウェイ社の株主へ向けた手紙の中で、自分の遺産は、10%を短期米国債、残りの90%をS&P 500 インデックス・ファンドに投資するよう指示したと書いています。
それは、分散投資では、大きな手間暇をかけることなく、長い目で見れば多くのプロを上回るような運用成績を上げることができるためです。
もちろん、分散投資ではリスクを低減することができる分、短期間で大きく資産が増えるようなことはまず期待できません。
それに対し、集中投資は分散投資ではとても実現できないような高い運用成績を上げられる可能性があるのです。
しかし、集中投資で大きな成果を出すためには、十分な量の勉強や研究を継続して行っていく必要があります。
このことに関して再びバフェットの例を挙げると、彼は毎日の午前を数社の決算書や報告書を読むことに、午後を各種の専門誌やレポートを通じて米国内外の経済動向を把握することに費やしているといいます。
さすがにここまでできる人というのはほとんどいないでしょうから、まさにバフェットは世界一の投資家になるべくしてなったといえます。
このように、集中投資を行うのであれば、さすがにバフェットほどではないにしても、それに近い努力をし続ける必要があるのです。
そして、そういった覚悟のある人にとっては、素晴らしい成果を望める集中投資を行うのがよいでしょう。
一方で、そういった覚悟を持てないのであれば、やはり分散投資を行うべきです。
アクティブ・ファンドやヘッジファンドでさえ、ベンチマークとなるインデックスを上回るのはかなり困難なことです。
ましてや私たちが、ベンチマークを上回るような運用成績をそう簡単に挙げられるわけがありません。
ですから、多くの個人投資家にとっては、分散投資を中心とした資産運用を行うことが、現実的には最善の選択肢になると思われるのです。
小林 武文
精神科医・投資コンサルタント