ドルコスト平均法は「投資信託」と相性がよいが…
ポートフォリオのパフォーマンスに関する各種論文においては、「長期運用においてポートフォリオの価格変動の約9割は資産配分によって決定される」と結論付けられていたことに関しては、既に何度か触れました。
そして、そこでは「個別銘柄の選択やマーケット・タイミングの効果は大きくなかった」ということも指摘されていました。
ですが、前述したように、ポートフォリオの現金比率を高くして、その「現金」を用いて相場下落時に買い増すような戦略をとる場合には、買い出動するタイミングによって、期待リターンが大きく異なってきます。
つまり、資金を遊ばせておくことのできない機関投資家と違って、現金比率を高めておくことのできる個人投資家にとっては、マーケット・タイミングの効果は決して小さくないのです。
その一方で、「現金」以外の部分、つまり「VT」や「VWO」などといった資産の部分に関しては、いつどのようなタイミングで買えばよいのかといった疑問が生じてきます。
これに関しては、金融庁の『つみたてNISA 早わかりガイドブック』の中で紹介されているデータが参考になります。
それは、1985年以降の各年に、毎月同額ずつ国内外の株式・債券を購入していったとして、保有期間が5年と20年の場合とを比較したものです。
すると、保有期間が5年の場合には、年間の収益率(リターン)がマイナス8%からプラス14%と幅が広く、元本割れすることもあったのに対し、保有期間が20年の場合には、年間収益率が2%から8%であったというのです。
そのため、長期で毎月コツコツと積み立てることが大切だと結論付けられています。
ちなみに、この購入方法は「ドルコスト平均法」といわれるものです。
ドルコスト平均法は、投資信託やETFなどの金融商品を、毎月など一定期間ごとに一定額ずつ購入していく手法のことで、定額購入法とも呼ばれます。
この一定額ずつというのがポイントで、これにより価格が高い時には少量しか買うことができず、逆に価格が安い時には多く買うことができるのです。
その結果として、一定期間ごとに同じ数量ずつ購入していく場合に比べて、トータルでの平均取得単価を下げることができるというわけです。
そして、投資信託を利用すれば、1000円単位などといった少額から、ほったらかしで自動的にドルコスト平均法を用いた積み立て投資を行うことができます。
こういったことから、ドルコスト平均法は特に投資信託と相性のよい手法だといえます。
実際に、投資信託を販売する金融機関やファイナンシャル・プランナーなどによって、ドルコスト平均法が「少額からコツコツと長期で資産形成するのに向いている優れた方法」であると説明されているのをよく見かけます。
ですが、いくらドルコスト平均法を少額から実践できるとはいっても、投資信託は手数料が高いため、そもそも利用すべきものではありません。
「ETF」で実践するには、まとまった資金が必要
そうなると、ドルコスト平均法を実践するには、ETFを利用することになりますが、ETF には最低投資金額が1万円前後のものが多いため、投資信託と比べるとややハードルが高くなってしまいます。
これはどういうことかというと、例えば毎月の投資額が2万円であった場合には、ETFの価格が1万2000円から1万8000円になったとしても、購入する数量は1単位のままで変わらず、価格変動によって購入数量が変化するという調整機能が働かないのです。
つまり、最低投資金額が上がると、ある程度まとまった資金がないと、ドルコスト平均法のメリットを享受することができなくなってしまうのです。
また、特に海外ETFを利用する場合には、手数料との兼ね合いから、約12万円を最低取引単位として売買したいことを考えると、さらにハードルが高いものとなってしまいます。
ドルコスト平均法に潜む「機会損失」のリスク
ただ、ドルコスト平均法は、悪い手法とまではいいませんが、決して最善というわけではないため、無理してまで実践する必要は全くありません。
それは、ドルコスト平均法では、相場がどんなに高値圏であっても一定期間ごとに購入していったり、逆に相場がどんなに底値圏であっても一定額しか購入していかなかったりするためです。
そして、そもそもドルコスト平均法を利用せずとも、前述したように(関連記事『運用資金のポートフォリオ・・・「現金を5割以上」にすべき理由』参照)現金比率を高めておくことで、ある程度タイミングを計るような投資戦略を実践することができます。
であれば、ポートフォリオの「現金」以外の部分については、タイミングを計ることなく、金融商品をいつ購入してもよいのではないでしょうか。
それこそ投資開始時点で、ポートフォリオの半分の資金を用いて、ETFなどをまとめて購入してしまって構わないでしょう。
というのも、いくら高値圏にあるように見えても、株式や債券、REITなどの金融商品が、今後さらに上昇していくことがないとはいい切れないためです。
ポートフォリオの「現金」以外の部分については、初めからまとめて購入しておくことで、機会損失を少しでも減らしておくということも、大事な考え方になってくるでしょう。
小林 武文
精神科医・投資コンサルタント