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一般的な売却理由は「建前」であるケースも多い?
「本音」と「建前」、あまり好きな言葉ではありませんが、会社売却の理由に関しては、なかなか「本音」は出てきにくいものです。経営者として、心の底にしまっておきたいことが多く、本質的なところは伝えにくい面があります。
一般的な売却理由として「後継者不足」「選択と集中」「経営不振」「体調不良」などが出てくるはずです。しかし、これらは「建前」であることが多く、「本音」は本人でさえ気づいていないことがあります。売却理由の本音を知ることにより、売り手側との距離はぐっと近づき、条件交渉や手続きがスムーズとなります。また、よい案件に巡り会うためのヒントが隠されています。
以下に、表には出にくい本音を、これまでの筆者の経験からいくつか事例としてあげてみます。
【本音1】借金が怖い
借入も少なく、毎期、利益も計上している。そんな社長に売却理由を聞くと、実は「借金が怖い」というケースがよくあります。多くの社長は、資金繰りで苦しんだ経験を持ちますが、そのときの精神的苦痛を思い出してしまうようです。二度とあの経験はしたくないと。また、身近に借金を苦にして自殺をしてしまった方がいる場合などもあります。しかしながら、事業を伸ばすためには、どうしても先行投資、資金調達が必要になってしまいます。
【本音2】 社員教育・組織づくりに興味がない
会社を立ち上げて顧客と接しているときは自由度があったものの、組織をつくる段階になると急に、窮屈に感じる社長は意外と多いものです。そもそも、人を使うことにストレスを感じる社長もいます。特に、近年の人材不足と労務管理面での苦労話はよく聞きます。信用していた幹部社員が突然辞めてしまうときも大きなストレスを感じるようです。特に、独創的でアイディア溢れるような社長ほど、人材面で苦労しているケースが見受けられます。
【本音3】人生観が変わった
家族や友人が亡くなったり、信頼している人に裏切られたりと、人生における価値観が変わったときなどに起こりやすい理由です。多くの経営者は、背負うものも大きく、仕事が生活・人生の中心となります。そんなときに、ふと自分の人生に疑問を持つような何かが起きると、心に隙間ができてしまいます。過去の自分を振り返り、残された時間の使い方を考えてしまうのも頷けます。冷静に考えると、経営者に残された旬な時間は意外と少ないものなのです。
ビジネスを始めた「きっかけ」などを切り口に
【本音4】株式上場を諦めた
ベンチャー企業の多くは、株式公開、IPOを狙いますが、実際に実現できるのは多くとも年間100社程度です。上場手続きにおける監査法人、証券会社などとのやりとりも増え、決して得意ではない管理業務に追われてきます。また、経営環境などが変わりIPOが現実的ではないと感じても、社員・株主の期待を考えると簡単に取り下げもできません。そのタイミングで、上場企業の傘下に入るなどの選択肢が出てきます。
【本音5】飽きてしまった
経営者の発言としては問題かもしれませんが、今の事業に飽きてしまったというのは意外と多い理由です。2杯目のビールが1杯目より美味しいことはないように、人間の脳は慣れると飽きるようにできているようです。これは経済学でも心理学でも、よく説明される法則です。経営者も一人の人間であり、飽きるということは決して珍しいことではなく、もっと本音を出すべきかもしれません。
★本音を聞きだす方法★「きっかけ」を聞いてみる
では、どうすれば「本音」を聞き出せるのでしょうか。いきなり売却理由を聞くのは避けましょう。まずは、会社設立の理由、ビジネスを始めた「きっかけ」を聞いてみるのが効果的です。「きっかけ」という言葉はとても便利で、時間軸を一気に過去に戻し、本音を引き出せる魔法の言葉です。このヒアリング手法は、人材採用のプロに教わりました。企業側からみた人材採用とM&Aは類似する点が多く、参考になります。この手法を使うと、起業当時の苦労話などが出てきて、心の壁を取り除いてくれるはずです。
経営者は、「借金が怖い」「社員教育に興味がない」「飽きてしまった」などの本音を、社員や取引先、銀行などに話せるでしょうか。正直に伝えると、軋轢や問題が起こるはずです。「疲れた」「面倒になってきた」という、ふと漏らす言葉で表に出てくることもあります。このような悩みを抱えながら会社を経営するのは、本人にとっても社員にとっても不幸な話です。その一つの解決策が、やる気のある方への事業承継だと思います。M&Aは悩みを抱える経営者を精神的・経済的に解放することができる有効な手段でもあると感じています。
齋藤 由紀夫
株式会社つながりバンク 代表取締役社長
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