不動産投資の経験があっても、民法についてよく知らない人は多い。知らなくても、さほど困らないからだ。しかし民法は、土地や建物の権利という大きな財産を売買する際の取り決めに係る法律であるわけだから、無知であり続けることは大きなリスクである。そこで本連載では、不動産取引に関連した「民法」について解説する。第5回のテーマは「不動産詐欺 第三者に登記されたら泣き寝入り…!?」。

 

地主Aは、先祖代々の土地を所有しています。その愛人Bは遊ぶ金欲しさに、勝手に買主Cとその土地の売買契約を締結し、土地に関する書類を偽造、地主Aの実印を勝手に持ち出して、法務局で所有権移転登記を行ってしまいました。

 

登記は済んだという状況です。買主Cは、愛人Bが勝手な行動を取ったことなど知らず、それについて過失はありません。

 

さて、地主Aは買主Cに対して、「土地を売った覚えはない!」と主張することは可能でしょうか? 

 

愛人Bが所有権を取得していれば、買主Cに所有権に移転したと考えることができそうです。この点、地主Aと愛人Bとの間では土地の売買契約が締結されておらず、勝手に登記されていたとしても、土地の所有権は愛人Bへ移転していません。つまり、登記で「所有者」と記載されていたとしても、所有権を持っているとはかぎらないのです(公信力がありません)。

 

したがって、そもそも愛人Bに所有権が無いため、買主Cは所有権を取得していないことになり、地主Aは、「土地は自分のものだ!」と主張することは可能ということになります。

背信的悪意者には、登記が遅れても所有権を主張できる

大手ハウスメーカーが「地面師」に騙された事件は有名ですが、このようなケースはどうでしょうか。前述のように、売主Aが買主Bと土地の売買契約を締結した直後、売主Aと買主Cが共謀して「買主Bから代金を巻き上げてやろう!」と売買契約して先に登記を済ませてしまいました。

 

二重譲渡の場合、登記の早いもの勝ちで所有権が決まるということになっていました。これでは、買主Bは土地を取得することができず、かわいそうです。

 

これについては、買主Cは、信義則に反するような悪意者(背信的悪意者)という取扱いとなり、買主Bは登記が遅れたとしても、買主Cに対して所有権を主張することができるものとなっています。

夫婦間の金銭債権の相続問題 債権者が死亡したら…?

ある夫婦がお金を半分ずつ負担して、軽井沢に4,000万円の別荘を購入することになりました。このような場合、一般的に売主は、夫に対して代金4,000万円を請求することになると思われますが、妻は代金を支払う必要がないのでしょうか。

 

契約に「半分ずつ支払う」とだけ書いてあれば、売主は夫に対して2,000万円、妻に対して2,000万円をそれぞれ請求するのが原則です(分割債務)。

 

しかし、契約に「連帯債務とする」と書くことができます。連帯債務とは、同一の債務について、債権者に対して、債務者がそれぞれ独立に、全部弁済しなければならない債務を負担するものです。

 

その場合、売主は夫と妻のどちらか1人に対して代金の請求をすることができます。そして、夫が4,000万円の全額を支払った場合は、妻は代金を支払う義務はなくなります。

 

ただし、夫婦の関係においては、「半分の2,000万円は負担しろ」と請求できることになり、夫は妻に対して2,000万円のお金を貸したことになります。

 

さらに新たな問題として、夫婦間の金銭債権の相続についても考えてみましょう。妻にお金を貸した夫が死亡した場合です。子供がいないとすれば、妻が2,000万円の金銭債権を相続することになります(相続税の課税対象となります)。この場合、どうなるのでしょうか。

 

ここで、相続財産となった金銭債権は、相続人である妻が自ら負担する金銭債務に対応するものです。つまり、債権者と債務者が同一人物になるということです。このため、「混同」によって金銭債権・債務は、消滅することになり、夫婦間のお金の貸し借りは解消されることになるのです。

 

 

 

岸田 康雄

島津会計税理士法人東京事務所長 事業承継コンサルティング株式会社代表取締役 国際公認投資アナリスト/公認会計士/税理士/中小企業診断士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士

本連載に記載されているデータおよび各種制度の情報はいずれも執筆時点のものであり(2018年8月)、今後変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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