不動産投資の経験があっても、民法についてよく知らない人は多い。知らなくても、さほど困らないからだ。しかし民法は、土地や建物の権利という大きな財産を売買する際の取り決めに係る法律であるわけだから、無知であり続けることは大きなリスクである。そこで本連載では、不動産取引に関連した「民法」について解説する。

契約が有効となるためには「完全な意思表示」が必要

不動産売買をする方でも、民法の詳しい内容となると、ほとんどの方は知らないのではないでしょうか。しかし、土地や建物の権利という大きな財産を売買する際の取り決めに係る法律ですから、無視するわけにはいけません。民法の重要な取扱いを知らなかったがゆえに、後で取り返しがつかない失敗をして大金を失ってしまうことも考えられます。不動産売買をする際には、民法をぜひ理解しておきましょう。

 

不動産売買の際の取り決めを「契約」といいますが、契約を締結するにあたって、相手方に騙されたり脅されたりすることがあります。このような場合、自分の意思で契約を締結したとはいえません。そのような場合、意思表示に欠陥があるものとして、その契約の有効性が問われることとなります。

 

そもそも契約とは当事者間の合意であることから、それが有効となるためには、完全な意思表示が必要です。完全な意思表示とは、自由な意思に基づいた真意と一致する意思表示です。この点、真意と表示が食い違っている場合や、自由な意思に基づいたものではない意思表示は、無効となる場合や、いったん有効となってもそれを取り消すことができる場合があります。

錯誤ならば、既に転売されていても取り戻せる?

意思が不存在、すなわち、真意と表示が食い違っている場合として、心裡留保、虚偽表示、錯誤があります。

 

意思が不存在(真意と表示が食い違っている)とは?

 

心裡留保・・・当事者の一方が、わざと真意と異なる意思表示を行ったとき

→原則として有効。相手が悪意・有過失ならば無効

(例)土地を売るつもりではないにもかかわらず、冗談で土地の売買契約を締結したとき。

 

土地を売るつもりではないにもかかわらず、冗談で土地の売買契約を締結したときは、原則として有効です。しかし、相手方が冗談であることを知っていた場合、または、注意すれば冗談であることを知ることができた場合(有過失)は、無効となります。

 

虚偽表示・・・2人の当事者が通謀して、真意と異なる意思表示をしたとき

→無効。善意の第三者に対して無効主張できない

(例)債権者からの差し押さえから逃れるため、知人と相談して、知人に土地を売ったとする架空の契約書を作成し、所有権移転登記を行ったとき。

 

2人の当事者が通謀して、真意とは異なる意思表示を行って土地の売買を行った場合、当事者間では無効となりますが、土地を転売して善意の第三者に売却したとき、その善意の第三者に対して無効を主張することができません。これは、悪巧みをした2人の当事者を保護する必要がないからです。

 

錯誤・・・意思表示した者の意思と表示に食い違いがあり、それを知らずに意思表示をしたとき

→原則として無効。売主に重大な過失があれば無効主張はできない

(例)土地を「100,000,000円」で売るつもりだったが、うっかり間違えて、「10,000,000円」と書いた契約書に調印してしまったとき。

 

土地を「100,000,000円」で売るつもりだったが、うっかり間違えて、「10,000,000円」と書いた契約書に調印してしまったとき、原則として無効となります。ただし、売主に重大な過失(不注意)がある場合には、売主が自ら無効を主張することはできません。契約の中の金額という「要素」は極めて重要なものであることから、重過失なく間違ってしまった場合には、売主を保護することとされています。この場合、善意の第三者に転売されていたとしても、第三者に対して主張することができます。

詐欺と強迫で「売主の落ち度」に関する判断が異なる

自由な意思に基づいたものではない意思表示として、詐欺と強迫があります。

 

瑕疵ある意思表示(自由な意思に基づいていない)とは?

 

詐欺・・・騙された結果、思い違いで意思表示を行ったとき

→取り消しできる。ただし、善意の第三者に対して取り消すことはできない

(例)Aが騙されて自分の土地をBへ売却しました。Bは善意のCへ転売しました。その後、Aは詐欺だと主張してBへの意思表示を取り消しました。この場合、Cに対して取消しは主張できません。

 

詐欺で意思表示を行った場合、詐欺に遭った売主にも落ち度があるため、詐欺であったことを知らない(善意の)第三者に対しては対抗できず、意思表示を取り消すことはできません。ちなみに、第三者との関係の取扱いは、善意の第三者に対して無効を主張することができる錯誤とは異なっています。

 

強迫・・・脅されて(強迫されて)意思表示を行ったとき

→取り消しできる

(例)Aは脅されて自分の土地をBへ売却しました。Bは善意のCへ転売しました。その後、Aは強迫だと主張してBへの意思表示を取り消しました。この場合、Cが善意であっても、Cに対して取消しを主張することができます。

 

強迫されて意思表示を行った場合、強迫された売主に落ち度はないので、強迫されたことを知らない(善意の)第三者に対しても対抗することができ、意思表示を取消すことができます。

 

結局、「売主に落ち度があるか、保護する必要があるか」が、取り消しできるか否かの判断基準となるのです。このポイントを押さえておくといいでしょう。

 

 

岸田 康雄

島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社代表取締役 国際公認投資アナリスト/公認会計士/税理士/中小企業診断士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士

本連載に記載されているデータおよび各種制度の情報はいずれも執筆時点のものであり(2018年7月)、今後変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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