不動産投資の経験があっても、民法についてよく知らない人は多い。知らなくても、さほど困らないからだ。しかし民法は、土地や建物の権利という大きな財産を売買する際の取り決めに係る法律であるわけだから、無知であり続けることは大きなリスクである。そこで本連載では、不動産取引に関連した「民法」について解説する。第3回のテーマは「超高齢化社会で続出する親子間の不動産トラブル」。

認知症の親が所有している不動産をどうするか?

2010年に超高齢化社会(65歳以上の高齢者人口が21%以上)に突入した日本。医療や介護の問題はもちろんですが、不動産関連の権利問題も、よく聞かれるようになりました。

 

特に、高齢の親が認知症になり、介護施設に入居。居住していた家(親所有)が空き家状態になっている…というケースは、現代の日本において非常に多く見られます。所有者が認知症で、契約書を読むことも、印鑑を押すこともできない状態の場合、物件の売買はできないのでしょうか?

 

本記事では、超高齢化社会の現代で起こりがちな、親子間の不動産トラブルについて見ていきますが、ここでまず、民法における「行為能力」について説明しましょう。民法では、単独で完全に有効な法律行為を行うことができる能力のことを「行為能力」といいます。そして、弱者救済の観点から、一定の者の行為能力を制限し、保護する規定を定めています。

 

この場合、認知症となった親が「成年被後見人」と認定されると(精神上の障害によって物事を判断する能力がない人で、家族などからの請求によって裁判所から後見開始の審判を受けた人を成年被後見人といいます)、法律行為は成年後見人(保護者)が代理で行うことができます。たとえば、成年被後見人の自宅を売却するときは、成年後見人が代理で売買契約を行えるのです(家庭裁判所の許可が必要です)。 

子が勝手に売却したのに「親の落ち度」となるケース

もう少し複雑なケースを考えてみましょう。親は、近ごろ認知症の症状が現れてきて、老人ホームへの入居を視野に、所有する賃貸アパートの売却を考えていました。とはいえ、まだ、売却を決意したわけではありません。しかし、賃貸アパートの管理は自分ではできなくなっていたため、子に管理を任せていました。

 

しかしその子は、ある日、ギャンブルで多額の借金を抱えてしまい、お金が必要となったため、「私は親の代理人です」と言って、入居者の一人との間で、勝手にアパートの売買契約を締結してしまいました。このような場合、親は賃貸アパートを売らなければいけないのでしょうか?

 

原則的な考え方は、代理権がないわけですから、親は賃貸アパートを売る必要はないというものです(無権代理行為)。しかし、賃貸の管理業務に限っては代理権が付与されており、子は代理人として賃貸契約を締結していたわけです。この点、入居者(買主)からすれば、子が売買契約まで代理権を当然に与えられていると信じるのは正当でしょう。それなのに、親から「代理権など与えていない、アパートは売らんぞ!」と言われてしまってはかわいそうです(外観法理)。

 

そこで、代理人である子が自ら有する代理権の範囲を超えて法律行為を行った場合、相手方である入居者(買主)がそれを知らなかった(過失もなかった)のであれば、その売買契約は有効となるのです(表見代理)。

 

「それでは親がかわいそうだ!」という意見があるかもしれません。しかし、賃貸管理まで任せて信頼していた子に裏切られたというストーリーです。子を信頼した親に落ち度があると言わざるをえないのです。

父から相続した土地にアパートを建てたつもりが…?

次のケースはもっと複雑ですが、実際に筆者のクライアントにあった話です(人名はすべて仮名)。

 

花子さんが父親の太郎さんから相続した土地に賃貸アパートを建てて生活していました。しかし、相続登記を行っていなかったため、他界した太郎さんの所有となっていたのです。また、太郎さんからの相続の際に兄弟の二郎さんとは遺産分割協議を行っていなかったとのことでした。

 

花子さんは自分が建てたアパートの敷地ですから、「土地は自分のものだ」と主張していますが、法律的には、相続のときから法定相続分2分の1で二郎さんと共有になっていたのです(二郎さんも他界していますから、現在は二郎さんの奥様と共有です)。

 

しかし、花子さんは自分が所有するという意思を持っており、アパートを建てて公然と占有していますから、外部の第三者から見れば、花子さんの土地のように見えています。そこで、このような場合、花子さんは一定期間がすぎれば、「時効」によって取得することができるという法律があります。つまり、二郎さんの奥様の持分を自分の持分にすることができるのです。

 

もし、花子さんが、二郎さんの奥様との共有状態にあることを知らなければ(過失もなければ)、占有を開始してから10年で所有権を取得することができます。花子さんは「そんなことは知らなかった!」と当然に主張することができるのです。

 

しかし、相続の結果として相続財産が共有となることくらいは、税理士か司法書士に聞けばわかるはずで(顧問税理士が教えておくべきです)、それを知らなかったのは花子さんが悪い(過失がある)とも言えます。その場合、占有を開始してから20年で所有権を取得することになります。

 

相続登記をするかしないかは、当事者の自由ですが、後からトラブルになることを避けるためにも、他界した親が所有となっている不動産には注意したほうがよいでしょう。

 

岸田 康雄

島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社代表取締役 国際公認投資アナリスト/公認会計士/税理士/中小企業診断士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士

本連載に記載されているデータおよび各種制度の情報はいずれも執筆時点のものであり(2018年8月)、今後変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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