中国経済をいわゆる新常態へ移行させるためには、経済構造の改革が必須であり、中でも国有企業の改革が重要な柱となっている。前回に引き続き、国有企業改革と私企業発展の歴史を振り返ってみたい。

戦略産業、基礎産業を独占する国有企業

前回に引き続き、中国経済における国企改革と私企業発展の歴史について見ていく。

 

④ 第4段階(2000年代初―13年頃)

胡錦濤政権下で、国家が支配権または一定の影響力を有するべき戦略産業、基礎産業を再確認。具体的には2006年、国家が「絶対的な支配権(絶対控制権)」を持つべき戦略産業として、国防、電力、石油石化、通信、石炭、航空が確認され、これら産業では、多くの国企間の競争はあるも、新規企業の参入は抑制された。

 

また、機械、鉄道、電信技術、建築、鉄、金属加工は、国家が「一定の強い影響力」を有するべき「基礎」または「支柱」産業と位置付けられ、戦略産業ほどではないものの、やはり私企業の参入は抑制された。実際、電力、石油・天然ガスといったエネルギー分野は保有資産ベースでシェアは9割以上、企業数でも5、6割を占めた。

 

●国有企業が支配する工業分野(2013年)

(注)外書きが全体の計数で、カッコ内が国企の計数
(出所)国家統計局統計より筆者作成
(注)外書きが全体の計数で、カッコ内が国企の計数 (出所)国家統計局統計より筆者作成
 

 

所得格差の拡大に対応して和諧社会の実現が政治的スローガンとなる中で、思想面でも、2004年頃から市場機能を重視した改革路線を批判する論調が息を吹き返した。

 

こうした状況下で、民間部門が縮小し国有部門が再び拡大する「国進民退」が問題視されるようになり、これに対応して、民間投資促進を目的として、国務院は、05年「非公経済36条」、10年「民間投資の健全な発展を奨励することに関する国務院の若干の意見」、いわゆる「新36条」を発表。具体的には、民間投資の範囲・領域の一層の拡大を図るとして、基礎的インフラ部門、公共事業・政策性住宅建設、医療・教育等社会事業、金融、貿易、国防・科学技術への民間資本の動員奨励が提唱された(注)

 

(注)非公経済36条、新36条:国務院は2005年、「私営企業等非公有制経済の発展を支援することに関する若干の意見」(非公経済36条)を発表し、民間企業の発展を奨励したが、その後も国有企業の独占的状態は変わらず、改めて2010年、「民間投資の健全な発展を奨励することに関する若干の意見」(新36条)を発表した。新36条では、民間資本が参入できる領域の拡大、特に公共工事、社会事業、金融サービス等の分野への参入を奨励するとしている。

国務院などが「国企改革深化に関する指導意見」を発表

⑤ 第5段階(2013年-現在)

習近平政権下、2013年11月第18届共産党三中全会で「市場が決定的役割を果たすこと」、および「混合所有制」の推進を打ち出し、また汚職摘発強化とも関係するが、国有資産の保全を図ること、国企幹部の報酬引き下げ措置を発表した。

 

14年7月、国有資産管理委員会(国資委、2003年に国務院直属の機構として設立)が6国企を対象に、国有資本投資会社と国有資本運営会社を設立、混合所有制推進、取締役会のマネジメント選任・評価、報酬決定に関する権限の明確化、国資委担当者を2、3の国有企業に派遣し改革の実施を点検すること(いわゆる4項改革)を試験的に実施、15年9月、国務院と中共中央委が懸案であった「国企改革深化に関する指導意見」を発表した。

 

指導意見の方針は、10月、五中全会で採択された次期第13次5ヶ年計画建議の中でも再確認された。これに基づき、国資委関係者によれば、その後党中央領導小組(指導チーム)が、国資委の「10項改革」(上記「4項改革」を拡大したもの(注))、および対象国企を6から10以上に増やす案を承認し、2016年から実施することを決定した(2015年12月12日付上海証券報他)。

 

(注)10項改革は、①役員会の権能、②経営者の外部からの選任、③外部監査人制度、④従業員の報酬分配制度の差別化、⑤国有資本投資運営経営会社制度、⑥中央国有企業の合併再編、⑦一部重要領域での混合所有制推進、⑧混合所有企業の従業員持ち株制、⑨国有企業の情報公開、⑩国有企業が行っている従業員に対する教育、医療、住宅サービス等社会的機能の分離。

 

 

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