民間部門の発展に逆行と、指導意見に否定的評価も
指導意見では、民間資本の参入拡大や、国有資本投資会社、運営会社の役割強化等をうたう一方、大胆な民営化の方針はなく、全ての重要な意思決定を党が行うという基本的なガバナンスには変更がない。むしろ、商業性のある分野、新規分野への国企の参入が認められ、競争力がある限り、民間資本と競合することになる点で、国企の投資する分野がこれまでよりも拡大、本連載の第3回と第4回で説明したこれまでの国企改革、民間部門の発展の歴史の大きな流れにも逆行しているのではないかとの印象を与える。
このため、海外識者からは、指導意見に対し否定的な評価が多い。代表的なものとして、指導意見の実施によって、民間投資家の国企に対する影響力、発言力が高まるというような考えは、次のような点から幻想にすぎないとの主張がある(2015年9月19日付英経済誌エコノミスト等)。
①国資委はシンガポールのテマセク方式導入で権限がなくなることを嫌い、代わりに国有資本投資会社、運営会社設立を通じ、現在の国企に対するマイクロマネジメントを続けようとしている。
②混合所有制の推進は全面的な民営化ではなく、少額の国有株売却を意味しているだけであり、さらに指導意見は「国有資産の流出阻止」をうたっていることから、売却先も民間投資家より他の国企になる可能性が高い。
③党の国企に対する指導強化が強調されている。
否定的評価に対する中国学者などの反論とは?
こうした否定的評価に対しては、主として中国学者から次のような反論がある。
確かに国企の投資機会は拡大するが、民間資本が国企の経営に参画すること、あるいは国企が支配する公益性のある分野でも、国企がその経営を民間企業に代理委託することが認められているという「国中有民、民中有国」がまさに混合所有制の意義であり、指導意見の特徴であるとする主張があり(英国大学の中国人学者、2015年9月21日付BBC中文網)、また、長江商学院(中国の有力ビジネススクール)教授は、次のような点を挙げて、拙速な民営化推進は逆効果としている(2015年9月30日付米経済誌フォーブス)。
①民営化で企業ガバナンスが改善するためには、成熟した法制度・会計制度の存在、企業の利益から独立した監督当局が企業法制を立案し実行することが必須条件になるが、中国でこれら制度的条件が整うには、なお長い時間がかかる。
②党による企業幹部の監督や腐敗汚職防止は、党がその正当性を維持する観点から、党の利益に資するものとして、一定の責任を持って行うことが期待できる。
③ビジネス環境が未成熟な中で、拙速に民営化を進めると、旧ソ連からロシアへの移行期に見られたように、富裕層や特別のコネを持った層が国有資産を略奪するおそれが高い。
④多くの国企の規模は巨大で、単一の民間資本がその所有者になることは考え難く、民営化と言っても、現実には、多数の零細民間株主による所有となり、彼らは各々、自らの限界的な利益を追求することに腐心する結果、必ずしも収益性・効率性の改善にはつながらない。
⑤中国よりはるかに成熟したビジネス環境を持つ米国でも、特に2008-09年のグローバル危機で見られたように、業績に関係しない高報酬、欺瞞やペテン等、著しい企業ガバナンスの欠如が見られる。