<あらすじ> 山本道郎は、愛人であるユカリの友達・マナミを倉田に紹介した。「愛人として囲ったほうが、妻バレのリスクが低い」。そう豪語する山本は、真面目な倉田に、「工夫次第でいくらでも経費にできるから、愛人を持つのは一石二鳥」と、さらに悪知恵を与える…。一部の富裕層しか知らない、「愛人」を持つことの金銭的な損得勘定に真剣に迫るリアル小説、男編〜第3回。

 

「あの二人、いい感じだったよね」

 

ユカリは、脱ぎ捨てた下着を拾いながら山本に言った。

 

「そうだな。でもあいつ奥手だから、マナミちゃんがプッシュしないと難しいかも」

 

「だったら問題ないよ。マナミ、倉田さんの愛人になる気満々だし」

 

「そうなの?」

 

「うん。だってやっぱり贅沢したいじゃん」

 

水商売時代に貯めたお金があるから、生活に困っているほどではない、とマナミは言っていた。

 

だが、仕事をせず貯金を切り崩しながら専門学校に通う生活は、決して楽ではないはずだ。

 

「夜の仕事ってね、一度染まっちゃうと、抜けるのが難しいのよ」

 

「簡単に稼げるから?」

 

「簡単じゃないよ。嫌な客の相手だってしなきゃいけないし、生活不規則で美容にも悪いし」

 

それより大変なのは、一度おかしくなった経済感覚から抜け出せないことだとユカリは言う。

 

「お水に限らないと思うけど、人間、贅沢な暮らしに慣れちゃうと、質素だった頃には戻れないものよ」

 

「だろうな。俺らのギョーカイでも、IT長者になって金銭感覚がおかしくなってダメになったヤツ何人もいるぜ」

 

「ミッチーみたいな人は、才能あるから会社潰れても立ち直れるでしょ。ホステスみたいに男の相手するくらいしか取り柄のない女は、結局、男の力に頼るしかないの」

 

「だから、俺の愛人になったのか?」

 

「お金が目的じゃないとは言わないよ。でもね、だからといってお金のある男なら誰でもいいってわけじゃない。ミッチーのこと好きだから、愛人になったのよ」

 

「俺のどこが気に入ったの?」

 

「私を気に入ってくれたこと。それとアレが上手なこと」

 

キャハハ、と笑いながらユカリは山本に抱きついた。

 

夜のテクを褒められて悪い気がする男はいない。

 

キスされた山本は、穿いたばかりのユカリのショーツを再び脱がせた。

 

+ + +

 

「どれにしよっかなー」

 

「あんま高いのにすんなよ」

 

「予算はどれくらい?」

 

「この辺りならいいよ」

 

山本が指差したのは、50万円の指輪だった。

 

ゴールドとプラチナのコンビが美しいデザインで、0.2カラットの小さなダイヤが埋め込まれている。

 

「だったらこっちがいい」

 

ユカリが指差したのは、テニスブレスレットと呼ばれる小さなダイヤがぐるりと一周はめ込まれたブレスレットだ。

 

「指輪が欲しいんじゃなかったのか?」

 

「どうせ、何の意味もない指輪でしょ?」

 

ユカリは、たまに可愛いことを言う。

 

ユカリに指輪をねだられ、ステディリングくらいならあげてもいいと思いジュエリーショップへやってきた。物わかりのいいユカリのことだから、ありえないと心配していなかったが、たとえばエンゲージリングなど、山本の結婚生活を脅(おびや)かす重い意味を求められたら、さすがに渡せない。

 

今のところ良い関係を築けているが、万が一、ユカリが本気になったりしたら、いくらかの手切れ金を渡して別れることも、視野に入れなければならない。

 

金銭を介すことで、互いの領域に踏み込まない大人の恋愛を楽しむのが、愛人というものだ。その暗黙ルールをどちらか一方が壊したあかつきには、たとえ愛していても、関係は終わりにしなければならない。

 

(……ま、それはないな)

 

愛とお金は時に比例し、時に反比例する。

 

お金を積むことで愛が買えると勘違いしたり、お金を積まれて愛があるのかと錯覚したりということもあれば、冷めた愛をごまかすためにお金を費やしたり、愛がなくなった後ろめたさから金を投じたりする。

 

ユカリのことは好きだ。だが妻への愛情とは別物だ。

 

妻になる可能性のない女だからこそ、「金で愛情を買う」という手段によって関係を維持する。ユカリとは、いい愛人関係を築けていると山本は信じている。

 

倉田にも……とマナミを紹介したが、心配する気持ちがないわけではなかった。

 

真面目な性格の倉田は、関係が深くなったら、割り切れなくなってしまうかもしれない。
女遊びに慣れていないからこそ、うまく振る舞えず妻バレし、基盤である結婚生活を失ってしまわないとも限らない。

 

大人の遊びには、リスクがつきものだ。万が一のことがあろうと、それは倉田の責任である。必要ならば、適宜フォローくらいはしてやってもいい。

 

「お待たせしました。こちらお品物と領収書です(※)」

 

店員からブレスレットの包みを受け取った山本は、ユカリの肩を抱き、上機嫌で夜の街へと歩き出した。

 

〜監修税理士のコメント〜

※愛人への高額なプレゼントを経費で落とせるか

編集N 指輪とかブレスレットとか、愛人への高額プレゼントが経費で落とせるんですか!?    

税理士 たとえば今回のように50万円のアクセサリーを買った場合、領収書を「御品代」にして、内容をぼかしているのでしょうが、高額な領収書ほど、税務調査で突っ込まれる可能性大です。そもそもアウトな行為なので、まずいですよ、これは…。

編集N やはりアウトですよね。実際にこんなことする人、いるんですか?

税理士 ポケットマネーから出して奥さんにバレるのを恐れてか、やってしまう人もいるかもしれませんが、税務調査ではこの手のものは必ず内容を追求されますね。「何を」「何の目的で」購入したのか。贈答品であれば「誰に」渡したのか。愛人へのプレゼントでは完全にアウトです。購入した山本自身に対する給与とみなされるので、会社では役員賞与として損金不算入、山本個人には所得税・住民税が課税されます。まさにダブルパンチですね。

 

(つづく)

 

 

監修税理士:服部 誠

税理士法人レガート 代表社員・税理士

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この物語はフィクションです。

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