創業社長の多くが夢見るIPO。しかし、起業から資産形成をエグジットとして考えるのであれば、IPOよりもM&Aのほうが格段に現実的だ。本記事では、増加する中小企業M&Aの実態を取り上げる。

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IPOよりM&Aのほうが「資産形成」には現実的

創業社長の多くが夢見るIPO(新規株式公開)ですが、市場が回復している昨年でも、年間90社程度にすぎません。

 

国内上場企業の総数は約3,500社、それに対して年間の起業数は約20万社です。国内企業数の約320万社(中小企業庁調べ)と比べても、IPOは想像以上に狭き門といえましょう。ですので、新規上場を果たした創業社長にお会いする度に、尊敬の念を抱いてしまいます。実力もさることながら、運とタイミングに恵まれた方々なのです。

 

一方、創業社長の資産形成・エグジットという観点で考えると、IPOよりもM&A(バイアウト)の方が格段に現実的です。

 

米国では、IPOよりもM&Aのほうが、一般的な選択肢になってきています。VC(ベンチャーキャピタル)から出資を受けた企業のエグジットは、2000年を境にM&AがIPOを上回り、ここ数年は8~9割がM&Aという状況です。

 

国内でも、同じ動きが見られてきました。少し前の事例になりますが、チケットフリマサービス「チケットキャンプ」の運営会社は、115億円でmixi社に、オンライン宿題管理サービス「Quipper」が48億円でリクルート社に、格安宅配便「エコ配」が16億円でアスクル社に買収されました。これ以外にも、譲渡代金が数億円以下、買手が非上場企業等の場合、情報公開がされないため、話を聞くことは少ないかもしれませんが、事例は確実に増えてきています。

 

起業家と経営者は、求められるスキルが違う

アイデアマンで独創性がある創業社長でも、監査法人、幹事証券会社等、様々なステークホルダーとの調整が得意分野とはかぎりません。また、株式を公開すると、内部監査体制、コンプライアンス強化等、本業とは関係のない様々な業務とコストが発生します。

 

顧客、ライバル会社よりも、株主、社内と向き合う時間が増え、自分がその場で決定できる権限範囲も徐々に狭まってるのです。株式を市場に公開するということは、経営に社会的責任を伴うことでもあり、当然のことではありますが。

 

このような事実に気づいたベンチャー企業が、IPOからM&Aへエグジットの方向性を変えるのは自然の流れかもしれません。

 

事例を見ると、売却先は大手企業が多いですが、まだ外部資本を入れておらず、一部のメンバーだけでのみIPOを共有している場合は、未上場で人材不足な優良中小企業も、エグジット先に含まれてきます。今後は、海外の企業へのM&Aも増えるでしょう。

設立数年程度で「会社を売る」ケースも増えている

現在筆者は、表向きにIPOを公言しているITベンチャー企業からバイアウトの相談を受けています。外部環境が変わり、倍のスピードで事業拡大をする必要があるため、IPOに伴うコストと時間的余裕がないと感じているそうです。サービス自体は優れたものであり、社長自身が継続して働くことも希望しているため、買手にとっては開発に伴うコストと優秀な人材を確保できるメリットがあります。

 

とはいえ、将来の成長性を重視した投資になるため、それなりにスキルが必要とされるM&Aです。対象会社の純資産と買取り価格の差が大きく、計画通りにいかない場合には「のれん」の償却負担も重くのしかかってきます。

 

このようなパターンでのM&Aの場合、売手社長のプレゼン能力が天才的に高いと、思わぬ高値で買ってしまうことがあります。M&A担当者の冷静な目利き、デューデリジェンス、交渉力が必要です。

 

中小企業のM&Aというと、後継者不足に悩む老舗企業をイメージしがちです。しかし、実は設立数年程度の、業歴が浅い会社のケースも増えてきています。M&Aは未だに、「乗っ取り」などとマイナスイメージで語られることもありますが、売手が自ら動いて能動的に売却するM&Aは、買手にとっても人材獲得、新規事業の代替手段となります。

 

今後さらにM&Aを選択する企業は増加していくでしょう。

 

 

齋藤 由紀夫

株式会社つながりバンク 代表取締役社長

 

 

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