トレード業界では50年以上の歴史を持つ定番の指標
「チャート分析は移動平均線に始まり、移動平均線に終わる」「移動平均線を制する者がチャート分析を制する」といわれるように、移動平均線はテクニカル分析を行なうにあたり、基本中の基本と考えられています。
移動平均線は1920年ごろに米国で開発されたテクニカル指標です。ただ、同じ時期に日本でも「からみ足」という名で移動平均線があったともいわれ、同時期に開発されたという説とアメリカから伝わったという説とがあります。
一般に知れわたったのは1960年に米国のアナリスト、ジョゼフ・E・グランビルが移動平均線を極めた解説書『グランビルの法則』を出版してからです。ということで、トレード業界的には50年以上の歴史を持つ定番の指標といっていいと思います。
テクニカル分析には、移動平均線以外にもさまざまな分析指標があります。MACD、RSI、ボリンジャーバンド、一目均衡表、ストキャスティクス・・・など、トレーダーなら一度は耳にしたことのあるものから、ほとんど聞いたことのないようなものまで、その数は優に100を超えます。そして、それぞれの分析指標を使いこなす人たちがいて、自分が贔屓にしている分析指標の優れている点を主張します。
情報は多いに越したことはありませんが、「MACDはここが優れている」「一目均衡表はあそこが素晴らしい」などという話をそれぞれ別々に聞かされていたら、結局、自分は何を選べば良いのか、判断がつかなくなってしまうでしょう。
投資家のみなさんが知りたいのは、結局のところ何を使えば上手にトレードすることができるかです。言い換えれば、どの分析指標を使えば、相場が上がる・下がるの予測ができ、エントリーやエグジットがしやすく、だましにあう確率が低いのかということです。
私は仕事上、頻繁にプロと呼ばれている人たちの話を聞く機会があります。かつて銀行で為替ディーラーをしていて、いまはそのときの経験を活かして個人トレーダーになっている人もいます。
彼らの話を聞くと、トレードの経験が長くなればなるほど、不思議なことに基本に立ち返るようです。つまり、ベーシックな分析指標をメインに使っている方が多いように思えます。やれフィボナッチだ、ペンタゴンだと言っていた人も、最後は最もベーシックかつシンプルな分析指標を用いるようになるのです。そして、移動平均線こそがその最右翼ではないかと考えられます。
移動平均線を求める計算式とは?
移動平均線の第一の役割は価格の動きをなめらかにすることです。ローソク足では上がったり下がったりで、トレンドがつかみにくいのですが、移動平均線にするとそれらが平均化されてなめらかな動きになるので、トレンドがわかりやすくなるからです。図表2-1を見ると、ローソク足チャートだけではわかりにくい上昇トレンドと下降トレンドがよくわかります。
[図表1]トレンドをわかりやすくするのが移動平均線の役割
ちなみに、移動平均線には計算の仕方によって種類がたくさんあり、代表的なものは単純移動平均線(SMA、Simple MovingAverage)、加重移動平均線(WMA、Weighted Moving Average)、指数平滑移動平均線(EMA、Exponential Moving Average)です。いちばん有名なのはもちろんSMA、単純移動平均線です。
移動平均線に限らず、MACD でもRSIでもそうなのですが、テクニカル分析に用いられる分析指標で大事なのは、その計算の根拠をきちんと理解することです。何でもそうですが、仕組みを知らずに、それを使いこなすことはできませんし、むしろ理解できないものは使わないという気持ちが大切です。
では、移動平均線はどのような計算式で求められるのかを単純移動平均線を例に考えてみましょう。
移動平均とは何かということから、まず解説します。
「平均」は、誰でもご存じかと思います。たとえば米ドル円の終値の5日間平均とは、文字どおり、5日間の終値を足し上げて、それを5 日で割って求めます。たとえば、
1日目・・・110円50銭
2日目・・・110円90銭
3日目・・・110円10銭
4日目・・・109円50銭
5日目・・・110円20銭
となったとき、5日間の移動平均がいくらになるのかは、以下の計算式で求められます。
(110円50銭+110円90銭+110円10銭+109円50銭+110円20銭)÷ 5日間
これなら小学校で習う計算のレベルです。誰でも簡単に求められますよね。答えは110円24銭です。これが、5日目の終値が出た時点も含め、過去5日間の終値の平均値になります。とはいえ、この時点ではあくまでも過去5日間の終値の平均値に過ぎません。移動平均線というからには、毎日この平均値を計算し、それらを結んで線を描いていくことになります。
6日目の米ドル円の終値が、110円90銭だったとします。
この場合、先の1日目の終値を外し、6日目の終値を加えて直近5日間の平均値を計算します。
(110円90銭+110円10銭+109円50銭+110円20銭+110円90銭)÷ 5日間
=110円32銭
このようにして、1日ごとに新しい日の終値を加えるのと同時に、1日目の終値を外して5日間の平均値を計算するということをずっと続けて平均値を線で結ぶと、5日間移動平均線ができ上がります。
自分のトレードスタイルに応じた移動平均線の活用を
ところで、移動平均線を活用するうえでは、「何日間で平均値を計算すればいいのか」という問題がつきものです。証券会社の取引画面などに用意されているチャートツールでは、5日間、20日間、75日間、200日間がよく用いられます。
一般的には、5日間移動平均線のことを「短期線」、20日間移動平均線と75日移動平均線のことを「中期線」、200日移動平均線のことを「長期線」と呼びます。
まず、5日間は1週間(7日間)のうちマーケットが動いていない土日を外したものです。20日は1か月間から土日を外した日数に近く、同様に75日は3か月間、200日は1年間に該当します。
それぞれを表示してみると、下記の図表2のようになります。ここでは4本の移動平均線を紹介しましたが、4本全部を常にチャート画面に表示しておく必要はありません。自分自身がやりやすいトレードの時間軸に合わせ、売り買いのシグナルが適度に出現するものを組み合わせればいいでしょう。
[図表2]移動平均線を入れるとローソク足チャートの動きがわかりやすくなる
どの期間の移動平均線を使うかは、あくまでも自分がどの程度の期間でトレードをしているのか、あるいはしたいのかによって決めればいいことです。
たとえば、短期のトレードしかしない人が、中期線や長期線ばかりを見ていても、あまり役に立ちません。あるいは長期投資をする人が短期線ばかりを見ていても、同様に役に立ちません。自分のトレードスタイルに合った期間の移動平均線を見ることが大切なのです。