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遺産承継の手続きで気をつけたい「遺産変動」の問題とは?

本連載は、一般社団法人日本財産管理協会による編著、『遺産承継の実務と書式』(民事法研究会)の中から一部を抜粋し、相続開始から遺産分割までの「遺産変動」に関する基礎知識を紹介します。

遺産分割協議成立まで、遺産が変化なく存在するのは稀

被相続人に相続が開始して、即時に共同相続人の間で遺産分割協議が成立することは、理論的には可能だとしても、通常は考えにくく、共同相続人の間で遺産分割協議が成立するまでの間には、比較的長期間を要することが多い。

 

遺産を分割する主体としての相続人の調査と確定、客体としての遺産(相続財産)の調査と確定を終えない限りは、そもそも遺産分割(民法906条以下)を行うことはできず、これらが確定してから初めて遺産分割の方法を共同相続人間で決めていくわけであるから、これらの処理には少なくとも数カ月程度はかかるのが通常である。

 

さらには、これらの手続中に共同相続人間で争いが発生した場合には、調停、審判、訴訟などの手続を要することとなり、場合によっては何年もかかることがある。

 

このように、相続開始後、遺産分割協議が成立するまでには、比較的長期間を要するものであり、この間に、相続開始時の遺産がそのまま全く変化なく存在していることは、むしろ稀である。

 

通常は、遺産の価値は増減し、場合によっては火災等により滅失したり、相続人により処分されて逸失するものがあるかもしれない。また、遺産そのものではないが、遺産の管理に係る費用が発生したり、利息や配当金のように、遺産から派生して発生する財産もある。

受任者は遺産分割時の遺産変動の過程を示す必要がある

われわれ司法書士等の法律専門職が、遺産承継業務を受任するにあたっては、依頼者である共同相続人に遺産分割の話合いをしてもらう前提(材料)として、遺産分割の対象となる財産の一覧等(財産目録)を提示するが、この場合、相続開始時の財産状況の目録を提示するだけでは足りない。

 

上記のとおり、遺産分割の時点では、相続開始の時点からさまざまな形で遺産に変動が生じているのが普通であり、遺産分割の際には、その時点での財産状況を示す必要がある。

 

相続開始時の預貯金の残高と遺産分割時の預貯金の残高が、利息や相続人による払戻し、その他さまざまな原因により異なる場合が多いことは、実務に携わっている者であれば、容易に想像できよう。

 

たとえば、相続開始時の預貯金の残高が100万円あったとして、遺産分割時にはさまざまな原因によって30万円になっていたとする。もし、この変動を知らない相続人が、相続開始時の財産目録のみを信じて、当該預貯金を遺産分割により取得したとしたら、トラブルになるのは必至である。場合によっては、そのことを説明しなかった司法書士等の専門職の責任を問われかねない。

 

この例は極端にすぎるかもしれないが、いずれにしても、遺産承継業務の受任者は、遺産分割時の財産状況(残高や現状)を示す必要があり、それに伴って、それまでの変動の過程をも示す必要がある(たとえば、預貯金であれば通帳の写しや入出金明細を財産目録に添付したり、財産目録の備考欄等に財産変動の内容を記載したりする)。

 

そして、相続人から申出があれば、変動について法律的な考え方や対応の仕方を説明できなければならない。

 

この説明が誤ったものであったり、各相続人の事情や状況に配慮しないものであると、われわれ専門職の信頼を失うばかりでなく、本来は防げたはずの紛争を発生させてしまう原因ともなる。

 

われわれ専門職が遺産承継業務を受任する依頼者にとっての価値の一つは、利害関係のない第三者専門家が遺産承継手続に関与し、管理することによって、感情的な利害対立の発生しやすい遺産承継手続を、紛争を予防しながら、円滑・適正に実施できることにある。

 

専門職が自ら紛争を発生させる原因とならないよう十分に注意を払って業務を遂行していく必要があるのである。

 

このように、われわれ専門職は、遺産承継業務を受任するにあたっては、相続開始後、遺産分割までの間に発生した遺産の変動の問題について、法律的な考え方や実務上の対応の仕方を理解しておく必要があり、本連載では、この問題について重要な論点を検討し、整理をしておきたい。

司法書士・行政書士・社労士 いがり綜合事務所 代表

〔略歴〕
平成20年司法書士登録(神奈川県司法書士会)、神奈川青年司法書士協議会副会長、同事務局長、一般社団法人日本財産管理協会理事、神奈川県司法書士会川崎支部支部長(現職)ほか

〔著書等〕
「財産管理契約締結における実務の流れと留意点」市民と法96号36頁、「規則31条の従来業務への活用」市民と法88号116頁、「任意相続財産管理業務及び遺言執行の実務」(共著)登記情報616号21頁ほか

著者紹介

司法書士・行政書士石橋事務所 代表

〔略歴〕
平成19年司法書士登録(神奈川県司法書士会)、神奈川青年司法書士協議会副会長、一般社団法人日本財産管理協会理事(現職)、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート神奈川県支部副支部長(現職)ほか

〔著書等〕
「任意相続財産管理業務及び遺言執行の実務」(共著)登記情報616号21頁、「多重債務問題の根本的な解決に向けて」月報司法書士469号21頁ほか

著者紹介

鎌倉司法事務所 代表

〔略歴〕
平成8年より各種金融機関にて勤務の後、平成25年司法書士登録(神奈川県司法書士会)、神奈川県司法書士会財産管理業務推進委員会委員(現職)、一般社団法人日本財産管理協会理事(現職)ほか

著者紹介

こうなん司法書士事務所 代表

〔略歴〕
平成17年司法書士登録(神奈川県司法書士会)、神奈川青年司法書士協議会事務局長、神奈川県司法書士会理事、一般社団法人神奈川県公共嘱託登記司法書士協会理事、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート神奈川県支部副支部長、一般社団法人日本財産管理協会理事(現職)ほか

著者紹介

JBA司法書士法人 代表社員

〔略歴〕
平成19年司法書士登録(神奈川県司法書士会)、神奈川青年司法書士協議会会長、神奈川県司法書士会理事(現職)、一般社団法人日本財産管理協会理事(現職)ほか

〔著書等〕
「民法附則(昭和22年法律第222号)の留意点」登記情報659号75頁、「家督相続と遺産相続⑴⑵」登記情報656号57頁・657号89頁、「旧法相続の今日的意義」(座談会)登記情報650号10頁、「債務整理業務から考える財産管理業務」市民と法95号106頁ほか

著者紹介

連載相続開始から遺産分割までの「遺産変動」に関する基礎知識

 

遺産承継の実務と書式

遺産承継の実務と書式

猪狩 佳亮,石橋 孝之,金山 東完,藤井 里絵,古谷 理博

民事法研究会

委任契約に基づく遺産承継の実務指針を示すとともに、受任、相続人・相続財産の調査、遺産分割協議、遺産承継手続、終了報告までを具体的・実践的に解説!

 

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