人生100年時代の働き方
リンダ・グラットンとアンドリュー・スコットによるベストセラー書籍『LIFE SHIFT』(東洋経済新報社)の中でも触れられたように、人生100年時代に向けては、70~80歳まで働き続ける必要があると言われています。
昨今、大企業だけでなく中堅企業や中小企業でも、60歳定年で社員を外に放り出すような企業は少なくなってきています。ただ、実態はどうでしょうか。再雇用においては、給与や役職も下がり、場合によっては今までの部下に使われる立場になってしまう話もよく聞かれると思います。
そのような中、今までの経験をもとに起業する人たちがいます。シニアの起業は一般的に、人的なネットワークを豊富に持ち、またそれほど大きな事業規模を狙わないことが多いため、若者の起業に比べ、ビジネスを軌道に乗せる難易度は低めです。
では、定年になってから起業準備し、実際に事業を始めた方はうまくいっているのでしょうか。
4,000件以上の起業・新規事業の相談をお受けしてきた筆者の感覚でも、「大失敗はしないが、少々厳しいな・・・」と思う事業が多いです。実際に、規模を拡大していく会社ももちろんありますが、1~2年で開店休業状態になっているシニア起業家も、ちらほら見かけます。
社会貢献的な生きがいを求めた「ゆるい」起業だから、利益がなくても、もしかすると仕事もなくても問題はないと考えるのかもしれません。実際、現在の60代以上の方はそれでも良いのでしょう。
しかし、今後定年を迎える50代以下の世代にとっては、前述のように70~80歳代まで収入を得続けることが必要なのです。そのためには、ある程度事業の体を成す必要があります。
シニア起業の成功のために必要なこととは?
では、なぜ難易度が低いはずのシニア起業が成功しないのでしょうか。
その大きな原因の1つは、シニア起業家自身が、企業内の資源を活用せずに一から事業を立ち上げた経験や、小さな事業を運営した経験がなく、起業のノウハウや小規模事業経営に関する経験・知識が不足していることです。
特に、経営全体が見えにくい、ある程度以上の規模の会社に勤めていた人にとっては、会社の中で経験を積むことは不可能に近いかもしれません。
では、どうすればいいのでしょうか。定年後に備えて、次の仕事の準備をすることが必要なのです。
その1つが「副業」を始めることです。ここで言う副業は、給与や報酬などの対価を得ているかどうかは問いません。つまり、無償で行っているボランティアであっても、将来的に有償の仕事になっていくのであれば、副業と言っても良いのです。
そして副業では、利益だけを追い求めずに行うことが、目的達成への近道です。ここでの副業の「目的」とは、お小遣い稼ぎのことではありません。経験を積むことで、次の仕事・事業に活かしたり、その事業を育てて本格的に起業するということです。自分の事業を持つ起業家になれば、定年後の生活を充実させることに繋がるのです。
起業したい業種に転職し、ノウハウ・人脈を得る手も
副業は、このようにローリスクな起業準備法であり、特に50代以下の会社員が将来に備える方法です。成功しやすい副業の方法として、いくつかの方法が考えられますが、たとえば下記の3つの方法があります。
●起業したい業種に転職、あるいはお手伝いとして、経験・ノウハウ・人脈を得る
●コンサルタント、無店舗販売などの比較的リスクの低いビジネスから始める
●後継者のいない会社や店舗などをM&Aで購入し、まずオーナーになる
起業したい業界のことを知らない、経験がない場合は、まずは転職やお手伝いから始める方法があります。この方法により、客観的な自分の実力や、今の会社から離れて自立した際の感覚が少しわかるようになります。
「20代ならまだしも、いまさら転職や弟子入りなんて・・・」と思われるかもしれません。確かに、転職であれば給与は下がることが多いと思います。ただ、70代、80代まで働くことを考えると、トータルの収入、あるいはやりがいはどうでしょうか。セミナー参加者でもよく見かけますが、定年退職間際になってからでは、準備が厳しくなるケースがあります。そのような意味でも、早めに行動する人が上手くいくのです。
また転職をしなくても、空き時間に手伝わせてもらうという方法もあります。もちろん、できることに限りはありますが、特に人手不足と言われている昨今、目的を持ってお手伝いしてくれる方、社会人としての経験や自分の武器を持っている方は貴重になりつつあります。普通、企業で「お手伝い」を明示している人材募集はしていません。そのため、自分から企業にアピールする、ある意味押しかけるようなことも必要になるかもしれません。
副業禁止規定を気にすることもあるかもしれません。その場合、たとえばお金をもらわないでボランティアとして手伝う方法もあります。すでに会社での給与があるので、ちょっとしたお小遣い程度の金額なのであれば、わざわざもらう必要もないでしょう。いわゆる先行投資のような考え方です。
筆者も大きな企業に勤めていましたが、ボランティアでベンチャー企業のお手伝いをしていた時期がありました。そのときの客観的な見方や人脈は、いまでも役立っています。
「副業で行いやすい業種」から始める方法もあります。特に、今まで身につけてきた知識や経験を活かせるものがおすすめです。
現在勤めている会社の競合になる可能性がある業務の場合は、たとえボランティアで関わっていたとしても、「競業避止義務」などに違反したとして訴えられかねません。直接今行っている業務だけではなく、今までの経験から行えそうな別業界の事業を考えてみてはどうでしょうか。
知識や経験を伝えるコンサルタント業は、取り組みやすいことの1つです。もちろん、すでにコンサルタントとして活動している知人を手伝うなどの方法が無難ですが、まわりにいる自分の知識・経験を聞きたいという人や会社を探すという方法もあります。
実際に考えてみると、「どんな分野がいいのか」「どうやって見込み客にアプローチするか」など、事業と同じ悩みが出てきます。まずは、自分のビジネスモデルを組み立てるところから始めるのが良いでしょう。
またオークションでの売買や、自分で仕入れたものを販売するといったように、無店舗販売から始めるという方法もあります。自分の趣味やこだわりの分野があれば、目利きもできるでしょうから、簡単に始めることができます。規模が大きくなってくると、効率化や仕入先の開拓、同業他社との差別化など、起業する場合と同様の問題が出てくるかもしれません。
もっと大きな規模で行いたいという場合は、外注や代行業者などをうまく利用して、自分が動かなくても事業がまわるように組み立てていく方法もあります。
後継者のいない会社等をM&Aで購入し、オーナーに
最近、ニュース等で目にしている方も多いかと思いますが、中小企業の後継者問題がクローズアップされています。主な理由としては、経営者の跡継ぎとなる子どもや親族がいなかったり、継ぐ意思がない、あるいは経営者としての育成ができていないことなどがあげられます。また、社員の中にふさわしい人材がいても、譲り受けるだけの資金がないというケースもあります。
しかし、経営者が見つからずに廃業となると、従業員が路頭に迷うだけでなく、今までの顧客にも迷惑がかかってしまいます。
このように、跡継ぎのいない中小企業、個人事業主の店舗などが事業承継を行う方法の1つがM&A(吸収合併)です。
アメリカでは一般的な方法で、日本でも最近は増えはじめています。M&Aというと、これまでの従業員や役員と対立するようなイメージがありますが、そういった敵対的なものだけではなく、存続とさらなる発展を図っていくためのM&Aも増えています。また、個人でも参画できる小規模なM&Aの案件も増えています。
既存の事業を引き継ぐので、ある程度の資産、事業に慣れている従業員と、すでに関係のある顧客もいます。起業で最も大変なのが、当初の顧客を得ることと、従業員の採用・育成です。しかしこの方法なら、起業当初の大変な部分を飛ばして事業を行うことができるのです。
オーナーになっても、すぐに経営に携わる必要はない
M&Aで中小企業を引き継いだ際に、すぐに会社員を辞めて社長になるという方法もあるでしょう。
しかし、オーナーになっても経営そのものは今までの社長や他の従業員に任せ、自分は副業状態でいるという方法もあります。自分は、引き継いだ企業から報酬を得なくてもいいので、より自由な立場で経営に関わることができます。引き継いだ事業のことや、経営者としての勉強を行いながら関わっていくのです。
経験を積み、十分にやっていける自信がついてから、本格的に経営者として「起業」します。そうすることで、もとからいた従業員とも良い関係を築きやすくなるのです。また、副業中に事業が伸びてきたら早めに起業するなど、起業時期の調整もできるようになります。
また、本業で培った経験や人脈を活かすことによって、引き継ぐ前までの中小企業にはなかったネットワークを使い、事業を発展させることもできるかもしれません。そういった意味では、全く関係のない事業のM&Aよりは、自分の今までの経験や人脈を活かせるほうが良いでしょう。
特に、現在勤めている企業から発注できる中小企業を引き継げるなら、メリットはとても大きいと言えます。もちろん、勤めている企業にとってもプラスになる取引でなければいけませんが、お互いにWin-Winの関係を築くことも可能なのです。
副業を開始するときには、それまでの経営者のもとで勉強するというやり方や、従業員との間にたてる経営コンサルタントなどの外部専門家と一緒に、チームで関わっていくという方法もあります。
いずれにしても「人生100年時代」への準備は早いに越したことはありません。「副業」を考えるのであれば、まず一歩、行動を起こしてみることが大切です。