前回に引き続き、助成金活用の際、「社労士・税理士」のみに頼るリスクを見ていきましょう。今回は、中小企業経営者を振り回す「士業の分断」について説明します。

助成金申請時には、たくさんの添付書類が必要

前回の続きです。助成金の種類はさまざまですが、すべてに共通しているのは「添付書類がたくさんあること」です。例えば労働系の助成金の場合、「給与台帳・給与明細」「雇用保険に関する書類」「出勤簿・タイムカード」「雇用契約書」「就業規則」などが必要です。

 

あるいは経費に関する助成金の場合は「請求書」「領収証」「会計書類(貸借対照表・損益計算書・出納帳・元帳など)」などが、そのほか設備などに関する助成金の場合は「事業計画書」「見積書」「請求書」「領収証」「会計書類(貸借対照表・損益計算書・出納帳・元帳など)」などがそれぞれ必要となります。

 

さらにすべての助成金に共通して、「会社案内・パンフレット」「定款」「商業登記簿謄本」なども用意しなければなりません。

複数の士業が書類管理しているため、集めるのは一苦労

本来、これらはすべて会社の保管書類です。しかし実際には、それらの多くの資料を外部の税理士や社労士が作成・管理していますから、申請の都度、税理士や社労士に連絡を入れ、用意する必要があります。

 

その場合、中小企業経営者は次のような非効率なやり取りに悩まされるはずです。

 

社労士:社長、助成金の手続きで請求書と試算表の添付が必要なので用意してください。

 

社長:え!? 請求書は手元にあるけど・・・。試算表は税理士の先生がつくってくれているので、ちょっと待ってもらえますか?

 

社労士:申請期限があるので急いでください。一日でも遅れると助成金がもらえません。

 

社長:分かりました。(いきなり急げと言われても・・・。どうしてもっと早く言ってくれなかったんだ)

 

社長:税理士の〇〇先生、助成金の申請で試算表が必要なんです。いつもらえますか?

 

税理士:社長、試算表はまだでき上がっていませんよ。それよりも、試算表をつくる際に請求書をチェックする必要があるので、先にこちらに送ってください。

 

社長:分かりました。(試算表がほしいのに、逆に請求書を送る手間が増えてしまった・・・。どうしてもっと早く試算表を上げてくれないんだ)

 

社労士:社長、試算表は用意できましたか?

 

社長:いえ、まだ・・・。

 

社労士:期限が近いので急いでください。

 

社長:分かりました。催促してみます。(こっちも本業で忙しいんだよな・・・)

 

すべての書類が一括で用意できればよいのですが、現実的には士業が分断されているためにそうはいきません。その結果、経営者は税理士と社労士の間に立って振り回されてしまうのです。本当に効率の悪い作業です。

 

さらに、場合によっては新たな作業を依頼したことで税理士から別途手数料を請求されることもあるかもしれません。

 

助成金の申請から受給、活用までのプロセスを資金の流れに置き換えると、資金を引っ張ってくるのは社労士の役割、そして資金の使い道をアドバイスし、守るのは税理士の役割です。本来は資金の「入」と「出」は一人の専門家が見るべきところ、士業が分断されていることからさまざまな弊害が生じてしまっているのです。 

本連載は、2018年5月28日刊行の書籍『中小企業の人材コストは国の助成金で払いなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

中小企業の人材コストは国の助成金で払いなさい

中小企業の人材コストは国の助成金で払いなさい

寺田 慎也

幻冬舎メディアコンサルティング

経営者は公的支援をフル活用して業績を向上させよ! 税理士・社労士資格を有する経営コンサルタントが豊富な実例をもとにわかりやすく解説。

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