社労士では、経営判断のタイミングを見極められない
助成金の専門家は社労士なので、社労士に相談すれば有効に使えるだろう――そう考える経営者は多くいますが、実はここに助成金活用の最大の落とし穴が潜んでいます。
社労士の主な仕事は給与計算や社会保険手続き、労働契約書や就業規則の作成などです。そのため社労士は顧問先の労務に関する状況は把握していますが、財務状態や事業計画などの経営に深く関与しているわけではありません。あくまで人の採用や退職が〝決まったあと〟の書類作成手続きが中心です。
しかし経営者が助成金の情報を必要とするのはその〝前段階〟、つまり人を採用したり、設備を導入したりといった経営判断のタイミングです。
例えば事業拡大に向けて人材採用と設備投資を同時に行いたい場合、人を雇うことでもらえる助成金を設備投資に回したり、反対に設備投資でもらえる助成金を融資に充当したりといった柔軟な使い方が可能です。
助成金は人手不足の解消に活用するのが第一の目的ですが、事業計画を実行するための〝軍資金〟とみなすことで利用価値が高まり、活用の幅も広がります。
ところが社労士は経営指導を行う立場にはないため、助成金を「どのタイミングで」「何に投下すべきか」という的確なアドバイスができない人も多いのです。社労士だけでは助成金を活用しきれない最大の課題がここにあります。
税理士は、雇用に関する助成金の情報を知らない場合も
そこで必要となるのが税理士の視点です。税理士の企業関与率は9割を超え、しかも求められる役割は税務申告に留まりません。税理士には顧問先の会計情報を管理し、経営計画づくりをサポートし、予算実績管理を通じて経営者の意思決定を支えるという役割も期待されています。
実際、税理士は試算表などを通じて経営者と顔を合わせ、経営全般の相談を受ける立場にあります。経営者はそうした機会を通じて税理士に相談しながら、どこで資金を投下するか、どこで人を採用するかといった事業構想を描いていきます。中小企業にとって税理士が唯一の〝経営のかかりつけ医〟と呼ばれるゆえんです。
本来は、そうした経営指導の場で税理士が助成金の情報を提供すべきでしょう。そうすることで人材投資と助成金活用のタイミングが合致し、目的と計画性を持って公的資金を使えるようになります。ところがその肝心の税理士は税務の専門家なので、雇用に関する助成金の情報を知らないケースが多いのです。
その結果、税理士が経営に深く関与しているにもかかわらず、助成金の情報が不足し、受給を逃している中小企業が少なくありません。これは税理士と社労士のダブルライセンスで経営指導をしている私の実感であり、同時に悔しく感じているところです。
中小企業経営者の身近にいる税理士は助成金のことが分からず、助成金に詳しい社労士はその情報を提供する場にいない――なんとも不合理なミスマッチが生じているわけです。
この話は次回に続きます。