厚生労働省も懸念する「認知症患者」増加の見通し
厚生労働省は2015年1月に、全国で認知症を患う人の数が2025年には700万人を超えるとの推計値を発表しました。65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症になるという計算となります。
認知症の高齢者数は2012年の時点で全国に約462万人と推計されていましたので、約10年で1.5倍にも増える見通しです。
この結果を踏まえて厚生労働省は、認知症対策のための国家戦略を急ぎ策定することとしています。
日本人が発症する認知症の大半は、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症です。両者の原因は異なりますが、いずれの場合も脳細胞が死滅して記憶障害や判断力障害などが起こってきます。
脳の神経細胞は、損傷しても再生しない
脳は、他の器官と違って「ニューロン」と呼ばれる最小単位である神経細胞で構成されています。
1つの神経細胞からは長い「軸索」と、複雑に枝分かれしている「樹状突起」と呼ばれる突起が出ていて、これらの突起は別の神経細胞とつながり合い、複雑な神経回路網(ネットワーク)を形成しています。
1つの神経細胞は、それぞれ1万個もの神経細胞と連絡を取り合っています。神経細胞内では、すべての情報が電気信号に換えられ、連結しているニューロンに次々と信号を伝えることで思考や運動の指令といったさまざまな活動が行われます。
脳の機能障害とは、この信号が正しく伝わらなくなり、思考や運動などの活動に支障が生じた状態を指します。
ニューロン同士がつながる部分を「シナプス」といいますが、ここはピッタリとついているわけではありません。狭い隙間があるために、電気信号では伝えることができないのです。
そこで、信号が軸索の末端まで達すると、シナプスから「神経伝達物質」と呼ばれる化学物質が放出され、それが次のニューロンの軸索や樹状突起にくっついて信号が伝達されます。
神経伝達物質によって情報を受け取ったニューロンは、再び情報を電気信号に換えて次のシナプスに伝えていきます。
シナプスから放出される神経伝達物質の種類は、100種類あるといわれています。代表的なものには、恐れを感じるアドレナリン、睡眠や覚醒に関係するノルアドレナリン、情動や快感に関係するドーパミンなどがあります。
アルツハイマー型認知症の場合は、学習、記憶、睡眠、目覚めなどに深く関わっている「アセチルコリン」の減少が、必ず見られるのも特徴の一つです。
脳以外の組織、例えば皮膚の細胞や髪の毛はどんどん入れ替わり、傷ついても新しい細胞が生まれて修復されます。しかし、脳の神経細胞は、損傷すると再生することはありません。出生後、一度も細胞分裂をしないで、ほぼ同じ細胞を一生使い続けます。
そのため、脳の神経細胞がダメージを受けると、うまく情報の伝達ができなくなるために認知能力が低下してしまうのです。