「自分が犯人だったらどうするか?」を現場で推察
刑事の仕事は、とにかく相手の心理を読む場面が多くあります。
犯罪者の取調べをはじめ、被害者や目撃者の事情聴取など全ての活動が、相手の心理を読む作業です。今回からは、刑事が現場でどうやって人間心理を読んでいるのかを説明します。
人間心理を読む場合、「目の前にいる人間」だけではなく、「目の前にいない犯人の心理」も読む必要があります。これは、見えない犯人を捕まえるための刑事の大事な作業です。
捜査の基本として「現場百回」という言葉があります。「事件は現場で起きている。基本は現場だ。最低百回は現場に行って現場に立ち返って捜査しろ」ということを言っています。
それでは現場に赴いた刑事は何をするか? 犯人になったつもりで犯人の心理で考えるのです。つまり「自分が犯人だったらどうするだろうか?」ということを現場で推察するのです。
例えば、空き巣事件。そもそもなぜ犯人はこの家を狙ったのだろうか? 家の外景、周囲を見て考えます。侵入口は1階のリビングにある腰高窓、なぜここから入ったのだろうか? 侵入するときに手はどこに置くだろうか?侵入用具は何を使ったのだろうか? 部屋に侵入したらまずどこを探すだろうか? ・・・犯人になり代わって考えていきます。
その際、すでに発見された証拠にも注意します。証拠の点をつなぎ合わせていきながら犯人の心理と行動を推察していくのです。
この作業をしていると自分が犯人であるかのような錯覚に陥ります。刑事は「犯行当日の現場の風景」に染まっていくのです。そこまでいくと詳細な犯人の心理も見えてきます。
知能犯担当刑事は、預金元帳の数字の動きで心理を読む
私は知能犯担当の刑事でしたので、銀行の預金元帳の数字の動きから犯人の心理を読むことがありました。
ある市役所の幹部職員が、業者に入札情報を与えた見返りに賄賂を要求し、現金100万円を貰った事件がありました。
幹部の預金元帳を精査すると、現金がA銀行に入金されたあと、翌日にはクレジットカードの支払代金として引き落とされていました。
さらに押収された領収書を見ると、高価な貴金属を現金で購入していることがわかりました。購入した貴金属の種類などから妻ではなく、若い女性、つまり愛人にプレゼントした可能性が浮上。捜査の結果、20代のクラブのホステスと交際していることが明らかになったのです。
このようなことから、幹部職員が業者に賄賂を要求した動機は、「愛人との交際費で出費がかさみ、金に困っていたから」ということが推察できました。そのあと幹部職員の供述からもそれが裏づけされたのです。
つまり、証拠となる金の使途先を調べれば、そのときの犯人の心理が読め、犯行の動機まで見えてくるというわけです。