出資割合によっては「雇われ社長」になる可能性も
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Q:出資してくれる知人がいますが、してもらうべきかどうか悩んでいます。どんな判断基準で考えたらいいでしょうか?
A:3つの観点から冷静に判断する
出資してくれる人がいるのは素晴らしいですね。あなたのビジネスが成功すると感じる第三者がいるということですし、あなたが人として信頼されているという証明でもあります。ただ、経営者として冷静に考えておきたいことが3つあります。議決権割合、創業融資、助成金のことです。
1 議決権割合
「議決権」とは、株主が会社の経営方針に対して決議する権利のことで、通常は1株につき1つの議決権があり、保有割合が高くなるほど会社経営に強い影響力をもつことになります。出資者の人選や出資割合について、設立手続きを行なう発起人と出資金の払込前に十分に考慮して決定しましょう。
なお、権利の内容は持株比率によって変わってきます。創業役員(創業社長を含む)として出資総額の3分の2以上を確保すれば、創業役員以外からの予期せぬ議決を防止でき、安定的な経営状態をつくることができます(図表参照)。
逆に、外部の誰かが出資割合を多くもってしまうことは、実質的な経営権をあなたがもたなくなるということ。独立起業したつもりが、結果的には「雇われ社長」の立場となる可能性もあるのです。
仮に少額な出資だとしても、誰かにお金を出してもらうと、非常に気をつかいながら経営することになります。ワンマン社長でいたい人には向いていない、とも言えます。将来ビジョンも含めて検討してください。
[図表]株主総会の議決権
出資の受け方次第では、創業融資を受けづらくなる!?
2 創業融資
出資の受け入れ方によっては創業融資を受けづらくなることもあります。たとえば、次のようなケースがよくあります。
世話になっているA社社長が出資をしてくれることになりました。出資割合は40%、取締役副社長にも就任します。
同時にA社の工場の一画を間借りし、そこを本社とします。
当初の社員としてもA社から数人が転籍し、技術的な指導も行なってもらえることになりました。
さて、このケース。見方によってはA社のグループ会社を1社立ち上げたように見えますよね。公庫などの金融機関も、前記のケースであれば、そう判断すると思われます。
その場合、「創業」には当たらないため、創業融資の対象外です。あくまでグループ会社として、グループ全体の借入枠を使って融資の可否を判断することになります。
なお、具体的に何%だったら創業で、何%だったらグループ会社という明確な基準があるわけではありません。出資割合以外の要素も含め、総合的に判断されます。他社から出資を受ける可能性があり、創業融資も受けたい場合は、起業に詳しい専門家に相談してください。
3 助成金
出資が助成金に影響を与える可能性もあります。
たとえば、過去の助成金に厚生労働省の「受給資格者創業支援助成金」がありました。創業後、新たに社員を雇うことなどが要件の助成金です。
このような助成金の場合、どこかの会社から出資を受けると厄介な問題が発生します。不正受給の可能性について調査を受けることがあるのです。
たとえば、助成金をもらいたいがために新たにグループ会社を立ち上げ、社員を転籍させるような不正の有無です。
そのようなことを防ぐため、他の会社からの出資がある場合、全社員のリストの提出が求められるなど、出資元の会社に多大な労力がかかる可能性もあります。出資を受け入れるかどうかは助成金申請の可能性も視野に慎重に検討しましょう。
<Point>
起業するときは資金に余裕がないので「出資してもらうかな?」と考えがちですが、冷静に判断してくださいね!