財産着服の90%以上が親族後見人によるもの
成年後見制度が始まった2000年当時、後見人として選任されるのは配偶者や子どもなどが91%と、親族が圧倒的多数を占めていました。ところが次第に、親族を後見人に選んだことで、思わぬトラブルが起こるようになりました。
「認知症の父親の後見人になった弟が、父親の預貯金を勝手に引き出して使っているようだ」「母親が亡くなった後、遺産分割をしようとしたら、母親の後見人だった兄が、多額の預貯金を引き出していたらしく、財産がほとんど残っていなかった」など、親族後見人による財産の着服被害が多くなっていったのです。
最高裁によると、成年後見制度の利用者が受けた着服被害は、統計を取り始めた2010年6〜12月が111件で、総額は11億3000万円、2011年が年間267件で総額30億9000万円と増えていき、2012年には前年比1.5倍の575件、被害総額45億7000万円に上っています。加害者は90%以上が親族後見人と見られるそうです。
話し合いで解決できて、着服した人にお金を返してもらい、兄弟間で不公平のないよう親の財産を平等に分けることができればいいのですが、親のお金を着服するくらいですから、加害者となった人は「ない袖は振れない」というのが現実で、着服されたお金が戻されることはまずないと考えて差し支えないでしょう。
実際、着服された親の財産をめぐって、親族後見人に対して、他の兄弟たちが損害賠償請求や不当利得返還請求などの民事訴訟を行う場合もあります。本人が存命中であっても、認知症で理解力や記憶力が著しく低下しており、まして死亡した後で後見人による着服が判明した場合、親と加害者となった後見人の間で、どのようなことがあったか不明なことが多く、民事訴訟を起こしたとしても、なくなったお金を取り戻すことは容易ではないでしょう。
機能し始めた「成年後見監督人」による監視体制
後見人は原則として、財産に関する全ての法律行為を、本人に代わって行うことができるため、判断能力を失った人の後ろ盾となり、支援や保護ができる半面、悪用される可能性も高いのです。まさに諸刃の剣といえるでしょう。
たとえ、最初から明確な悪意はなかったとしても、「自由に動かせるお金」を目の前にしたとき、欲が出てくるということは十分に考えられることです。筆者が見聞きしたところ、後見人として親の通帳を預かってお金を出し入れしているうちに、悪気はなくても、そのお金を自分のもののように錯覚してついつい余計に引き出してしまい、最終的に横領と言われても仕方のない事態に発展してしまう、ということが多いようです。
もちろんこの制度には、そうした事態を想定した仕組みもあります。「成年後見監督人」がついて、不正を行っていないかチェックする仕組みですが、残念ながらその仕組みは正しく機能してはいなかったようです。実際に横領の件数が増加して問題視されるようになってから監督が厳しくなり、ようやく機能し始めたというのが現実です。