今回は、凄腕トレーダー通称“YEN蔵“氏が、株式投資の魅力について語ります。※本連載では、投資顧問会社「林投資研究所」代表取締役 林知之氏の著書『凄腕ディーラーの戦い方 億を稼ぐトレーダーたちⅡ』(マイルストーンズ)から一部を抜粋し、普段は表舞台にあまり出ることがない凄腕ディーラーたちに林知之氏が直接インタビューして聞き出した、株式投資で勝つためのリアルな「相場哲学」を紹介します。

時間をかけて努力すれば、中長期の投資は必ず報われる

田代氏の為替ディーラー時代の話で印象的なのは、相場が動く中での〝玉さばき〟だ。慣れ親しんだ世界の日常業務を「撃ち合い」と表現するのだから、かなり激しい駆け引きが日常だったと想像できる。そんな田代氏が株を積極的にトレードするとき、どんな感覚があるのだろうかという点に興味が芽生えた。

 

─〝何でもあり〟の為替と比べると、株の世界は制約が多いなんて感じませんか?

 

個人投資家にとっては、何の制約もない世界だと考えています。ごく当たり前の自由市場だと。 マーケットメーカーといった立場ならば、いろいろなルールに縛られていますけどね。  逆に、株には「適正水準」という概念があるので、わかりやすいと思っています。株価の先行き はなかなか読めるものではありませんが、発表されている情報に限定されるとはいえ、一般投資家が勉強して徹底的に調べることも可能です。

 

だから例えば、ちゃんとした製品を作っていて業績や将来性に不安はない、でも市場の価格は売られすぎている、だから少なくともPBR1.0倍までは戻っていいのではないか、といった発想が通用する場面があるはずです。株には〝アンカー〟となるサポートラインがあり、トレンドによって非常に有効な基準となり得ます。でも為替って、どこが適正な水準なのかがわからないんです。ドル/円で、 90円が適正なのか、100円なのか、あるいは120円なのか──そういう物差しがないんです。

 

─為替には、上げ相場と下げ相場って概念もありませんね。

 

はい、為替は単なる交換比率です。よく、金利差とか購買力平価(※)
を持ち出して解説しますが、ピタッとはまることはありません。

 

株のほうが「企業の収益」という確固たる数字で考えることができる分、相場は相場として読めない部分はありますが、クリアーですよね。
購買力平価 正確には購買力平価説(Purchasing Power Parity Theory )。モノやサービスの価格は、自由に取引が行 われる限り異なる地域をまたいでも1つの価格になる、という考え方を基に外国為替レートの決定要因を 説明する理論。

 

だから株って、簡単だとは言いませんが、時間をかけて努力すれば中長期の投資では必ず報われる、個人投資家がプロを超えられる世界だと思うんです。為替相場なんて非常に感覚的なものなので、20年やっていてもわからないんです。目先の1円とか2円がわかったとしても、その先は見えません。

 

─そういう考え方の先に、新興市場も含めた株の魅力という発想があるわけですね。

 

先ほど「社長に会うこともできる」と言いましたが、企業を調べるという観点では、自分が仕事をしている業界の銘柄なんていう入り方も有効です。為替が画面上の数字でしかないのに対して、株は僕らが暮らしている社会や生活とつながってい ます。企業は利益を上げているだけでなく、製品を作ったりサービスを供給して社会を構成してい る存在ですからね。

 

─ファンダメンタルズを重視という立場ですか?  

 

マーケット価格の独立性がある以上、理屈抜きの対応力、つまりテクニカルズに根ざした行動は 必要です。だから、ファンダメンタルズとテクニカルズの両輪でしょうかね。例えば為替が1円、2円動くのは、ある意味〝ゆらぎ〟です。でも 10円とか15円動くとき、そこにはファンダメンタルズの背景があります。そうやってファンダメンタルズで動くときはその流れに乗るわけですが、実際にポジションを動かすためには総合的なトレード技術が必要ですし、テクニカルズの観点でチャートのポイントを目安にすることも求められます。

 

また小さい動きを取りにいくときも、テクニカルズで対応するわけですよね。「チャートが大暴騰を語っている」とか、「神のお告げで 10 円幅の変動がわかる」なんて言ってい る人は、まあ勝手にやってくれって思います(笑)。株だって投機で株価が動く面は大きいので、「割安だから買い」と短絡的に行動することはできません。企業の価値を見たうえで、安いときに買う、高いときに売る、ということです。

 

でも為替よりは、ファンダメンタルズで考えて理解できる部分が大きいのです。このわかりやす い部分をうまく利用し、自分の得意技でトレードに臨むべきだと考えます。

 

そういった状況の〝整理〟は大切ですね。

 

整理していくと、「楽しみ」という要素にも気づきます。もちろんストレートに楽しみを追求し たら儲からなくなっちゃいますが、純粋な「投資」で株主になって、四季報に名前を載せてみたい とか、そんな感覚があってもいいように思います。

実際には、竹田和平さん(※)のように会社ごと買ってしまうなんて、よほどの資金力がないと不可能ですけど。それに、会社に惚 ほ れすぎてしまったら結果は出ません。楽しみ、企業の分析、価格を取りにいくトレードと、それぞれの観点を整理しておく必要があります。

 

でも、感情は否定できません。いろいろな楽しみがあるのが、株の魅力ではないでしょうか。読み通りに動いてうれしいとか。ブルーチップ以外の多くの銘柄はとても俗人的で、さまざまな点でおもしろいと思います。
※竹田和平 「タマゴボーロ」で有名な、竹田製菓(現・竹田本社)の創業者。100社を超える上場企業の大株主としても有名だった。2016年7月に亡くなった。

投資商品を「自ら選別できるようになる」ことが不可欠

─俗人的な部分が悪い方向に向かうことも多いとも思いますが。

 

まさに「対応力」だと思います。マーケットでの売った買っただけでなく、おカネにまつわる幅広い対応力です。最近は「金融リテラシー」という言葉がよく使われますが、1400兆円ある個人資産が日本の最後の切り札だと思うんです。

 

だから〝金融機関の収益を助けるために投資信託がある〟といった構図ではなく、一人一人がスマートな投資家になって、自ら投資商品を選別できるようになることが不可欠です。

 

こんな視点で仕事をしていきたいですね。「お年寄りの話し相手」をすることが多くなるかもしれませんが、資金を持っている人たちの知識や対応力が高まればいいなと思います。

 

YEN蔵さんは、個人投資家との座談会みたいな場にも参加していますよね。

 

「一般投資家」なんて言葉で簡単にくくりますが、実際にお目にかかって相場の話をすると、非常に優れた人たちがいることに驚かされます。金融機関でトレードした経験があるわけでもないのに、プロよりもすごいシステムを仕上げて使っている人がいたりするんですよ。僕は理系ではないしプログラミングの知識もなかったので、いろいろなことを教えてもらいました。

 

そういうオタク的に研究している人たちって、自分が気づいたことを出し惜しみしないし、素直に意見交換したり批評し合う姿勢があります。勉強になりますし、ものすごく触発されますね。

 

もちろん全体で見ると、金融機関のトレーダーよりもセンスと技術がある個人投資家はトップの1〜3%です。続いて10%ちょっとの人たちが、まずまずスマートに勝っている投資家。でも中級のレベルに到達できない人がたくさんいて、金融機関のカモになっています。

 

そういう人たちが負けないレベルに達して長く活動すれば、結果的に金融機関も儲かるはずです。 金融業界を、そんな構造に変えていく手伝いをしたいという気持ちです。

 

株価と生活を結びつける発想は、私が長年、否定的に考えてきたことだ。株主優待で銘柄を選んでも決して安定した利益など期待できないし、小幅な利益を狙って短期で買ったのに上がらず、高配当を理由に塩漬けにする、といったケースを数多く見てきたからかもしれない。

 

だから、配当利回りを理由に株を買うことはない。ただ、配当金を受け取ったときに金額が大きければうれしいし、株主優待で製品が送られてくれば包みを開ける楽しみを感じる。そう考えると、「マーケットの価格だけを見る」ことに徹しているつもりでも、株を発行している企業が実生活と密接につながっている部分に、どこかで寄りかかっているのかもしれない。

 

田代氏は、常に柔軟に構えることでマーケット全体を正確に認識することと、不合理な価格変動に応じて行動する対応力を、実にうまく融合させているように感じた。

 

マネしてみたいと思う感覚である。

本連載は、林知之氏の著書『凄腕ディーラーの戦い方 億を稼ぐトレーダーたちⅡ』(マイルストーンズ)から一部を抜粋したものです。掲載している情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。投資はご自分の判断で行ってください。本連載を利用したことによるいかなる損害などについても、著者、出版社および幻冬舎グループはその責を負いません。

凄腕ディーラーの戦い方 億を稼ぐトレーダーたちⅡ

凄腕ディーラーの戦い方 億を稼ぐトレーダーたちⅡ

林 知之

マイルストーンズ

相場で生き抜くための知恵と戦術。ほんとうに相場で生計を立てている人のホンネ、表舞台にあまり顔を出さないスゴ腕ディーラーたちの相場哲学を凝縮した「珠玉」のインタビュー集。

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