今回は、クリニックの税務会計を委託するパートナーを選択する際、どのような点に注意すればよいのかを詳しく見ていきます。

「税務調査対応」に長じた税理士を選択する

クリニックを開業した後は、毎年、税務申告が発生するため、税務会計を委託する専門家=パートナーが必要となるでしょう。この選択にあたっても、開業後ではなく、開業を決意した時点から、同時進行で協力してもらえる信頼できるパートナーを見つけることが重要です。

 

パートナーを選択する際に、注意すべき点は以下の通りです。

 

クリニックを経営していくという長いスパンで考えると、税務会計はもちろんのこと、人事労務、法務庶務、生保損保、不動産取引等多種多様な問題に対処していかなければなりません。その際には、それぞれの問題解決にあたって、その分野に精通した専門家に助力を求めることとなるはずです。

 

税理士については、医療に特化しているに越したことはないでしょう。というのも税理士はそもそも職人なので、税務申告書はどんな税理士であっても作成可能ですが、医療現場に明るくないと診療科目別の留意点がわからないので、十分なサービスの提供やコンサルティングをすることができません。

 

また、中でも特に重要なのは、税務調査です。所長が現地での立ち会いをするのはもちろんのこと、税務署が指摘してくる事項について、納税者である医師を徹底的に擁護する必要があります。これには、にわか仕込みの理論武装ではとうてい太刀打ちすることはできず、税務署に主導権を握られてしまいます。

 

反対に、税務調査官よりもはるかに経験が多く、深い知識があれば、指摘事項を論破していくことが可能となります。この経費がどうして損金として算入できるのか、あるいは収入の計上基準についてどうしてこの処理方法が適正であるのかといった点について、論理的に回答できるのです。

 

医科歯科においては、税務調査は必ず行われると言っても過言ではありません。税務調査対応がお粗末であると、常日頃からどんなに偉そうなことを言っていても、信用できないでしょう。税務調査対応に長じた税理士を選択することは大切なことなのです。

 

もうひとつ注意すべき点を挙げるならば、医療法人化のノウハウを有しているか否かという点があります。医療法人設立にあたって、その一連の手続きについて会計事務所単独で自己完結することができず、行政書士等への外部委託という方法を採用している場合には、トラブルが発生すると大変です。特に許認可が下りないようなケースでは、お互いに責任転嫁が始まってしまうのです。

 

結論から言えば、双方に問題があることは間違いないのですが、責任の所在が曖昧なので当事者であるドクターが一番の被害者となってしまいます。少なくとも、事務所単独で、医療法人の設立が可能な、医療特化の会計事務所を選択することでこうしたリスクは回避できます。

 

よく耳にするケースですが、医療法人化を決意したところ、これまでの関与会計事務所にサポートができないと断られて、途中で止むなく会計事務所を変更するような場合があります。これには大変なエネルギーを要するので、将来、収入増大にともなう医療法人化を予定しているドクターは最初から設立ノウハウを有する会計事務所を選択するべきでしょう。

社会保険労務士、弁護士、司法書士の選び方とは?

次に人事労務ですが、不適切なスタッフがいれば、こちらから解雇することも視野に入れていかなくてはなりません。しかしながら、解雇事由を明確にしないまま、安易に首を切れば、「不当解雇だ」と労働基準監督署に駆け込まれることもあります。

 

そこで、解雇要件を充足しており、かつ所定の予告期間経過後に正式に解雇するためには、人事労務に長けた社会保険労務士に事前相談することが必要となります。スタッフ、中でも看護師や歯科衛生士といった有資格者が集まりやすいように、週休3日制を取り入れたいと考える際にも、変形労働時間制をどのように採用していくのかを社会保険労務士に相談することになります。

 

また、治療を巡って、万が一、患者との間で大きなトラブルが生じた場合には、医療訴訟に発展する可能性も出てきます。そのような場合には、弁護士に訴訟代理を依頼することになるでしょう。テナントのオーナーチェンジにともない、新しいオーナーが無理難題を突き付けてくるような場合においても、弁護士の存在は無視できません。また自賠責の請求額算定方法について、損害保険会社からお尋ねが来る場合にも弁護士に対応を任せた方がスムーズです。

 

さらに、分院展開していく中で、不動産を取得してクリニックを建築する場合には、不動産事情に精通した宅地建物取引主任者や登記業務全般を依頼する司法書士が必要となります。これにあわせて新たな借入金が発生するので、増加したリスクに見合った生命保険に加入したり、建物については火災保険や施設賠償保険といった損害保険にも加入することになるでしょう。

ワンストップサービスを提供している事務所と契約する

このように長期間にわたる医院経営においては、税理士だけではなく、社会保険労務士、弁護士、司法書士、宅地建物取引主任者といった職業専門家や生保損保の有資格者等のアシストが必要になるケースが幾度となく発生するのです。その都度、その分野の専門家を探し出して、依頼のために東奔西走することには大変なエネルギーと時間が必要となります。

 

このようなトラブル処理にあたって煩わされる時間を、来院患者に対する治療や自身の研究に充てたり、スタッフの教育や指導に充てた方がはるかに有効であることは言うまでもないはずです。

 

こうした要望に応えるべく、先にあげたような専門家たちとの間に密接なネットワークを持ち、税務会計はもちろん人事労務、法務庶務、生保損保、不動産分野に至るまで、ワンストップで対応可能な体制を整えている専門家集団が存在するのです。

 

したがって、このようなワンストップサービスを提供している事務所と顧問契約を締結することで、発生した事案に対してその分野における精通した職業専門家が対応し、スムーズな解決を図ってくれるのです。

 

この恩恵は計り知れません。というのも、当事者であるドクターは余計な時間と手間を大幅に圧縮することができるため、診療に専念することが可能となるからです。あるいは、その時間を家族と過ごしたり、好きな趣味に費やすことも可能です。時間は万人に対して平等です。だからこそ、有意義な時間を過ごしていくべきでしょう。そのためにも徹頭徹尾信頼できるパートナーが不可欠なのです。

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    本連載は、2016年4月刊行の書籍『改訂版 クリニック開業読本』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    改訂版 クリニック開業読本

    改訂版 クリニック開業読本

    髙田 一毅

    幻冬舎メディアコンサルティング

    2000年から2015年の医療機関の倒産件数は527件。経営破綻した医科・歯科クリニックの8割は破産を選択せざる得なく、再起も難しい状況です。このような厳しい状況の中でも集患に成功しているクリニックが存在するのはなぜでしょ…

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