亡くなってから初めて効力が生まれる「遺言書」
これまで、亡くなるまでに準備しておくといい、主に遺言の役割についてご説明してきましたが、実はもう一つ大切なことがあります。それは、生前の財産をしっかりと管理して守っておくことです。
順にご説明します。まず大前提として、遺言書は、その方が亡くなってから初めて、その効力が生まれます。意識もはっきりした元気なまま、「この日に死ぬ」というのがわかっていればいいですが、人間そうはいかないものです。ある日突然寝たきりになったり、認知症の症状がでることもあるでしょう。そんな時のために本人の支援をするのが、成年後見制度です。
成年後見制度とは、認知症や知的障がい、精神障がいなどにより、判断力が十分でない人を支援するための制度。不動産や預貯金などの財産管理や、介護などのサービスに関する契約、また遺産分割の協議などを、成年後見人が、本人に不利益にならないように、本人に代わって行います。
成年後見制度は、大きく分けると「法定後見制度」と「任意後見制度」があります。
法定後見制度…すでに判断能力が欠けていたり、不十分な場合に、援助者(後見人・保佐人・補助人)を裁判所が選んで、本人を支援します。本人の判断能力の程度など、本人の事情に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれています。
任意後見制度…判断力が十分なうちに契約して、判断力が不十分になった時に、あらかじめ用意していた契約に従い、自らが選んだ代理人(任意後見人)が支援を行います。自分の生活や療養看護、財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書で結んでおくというものです。
では、誰が成年後見人になることができるのでしょうか。
任意後見の場合は、あらかじめ本人が任意後見人を決めておき、法務局に任意後見の登記がされます。ただし、法律でふさわしくないと定められている事由のある者(破産者など)はなれません。
法定後見人については、本人の利益の保護や支援を目的として財産管理が中心となるため、裁判所が選任します。家族だけでなく、弁護士や司法書士が指名されることもあることから、処分行為や想いを伝えるなどの業務には向いていません。
またこの他にも、「任意代理」という制度もあります。
任意代理は、例えば、頭はしっかりしているが、身体が不自由で動けないというときなどに、代わりに銀行に行ってもらったりすることができます。健康な状態から任意後見契約の効力発生までのタイムラグを埋めるための制度です。
本人や家族の安定した生活を守る「民事信託」
ここで紹介した成年後見人については、対象者の死亡によってその効力は終了します。死亡後の様々な処理を代行してもらうためには、「死後事務委任」か「民事信託」が必要です。
死後事務委任は、死亡した際の「葬儀に関わる事務作業」や「賃貸住宅や携帯電話などの解約」といった、各種事務作業のみを行うことができる契約です。主に司法書士と契約されることが多く、契約書を作成して公正証書として保管をしますが、法律的な根拠が乏しく、法律的には不安定な立場であるという考え方もあります。
民事信託は、家族のための信託ともいわれ、本人や家族の安定した生活を守り、福祉を確保するために財産を活用する制度です。また、大切な財産を後継者に承継するための制度でもあります。これも弁護士や司法書士などを通じて公正証書を作成することが多いです。
制度としては以前からありましたが、10年ほど前に法律が改正されて使いやすくなったことから、最近、この制度を利用する方が増えています。
任意後見や民事信託は、いずれも対象者が健康なうちに家族(法定相続人)などを交えて話し合って決めることができるため、後々のトラブルを未然に防ぐためにはたいへん有効な制度です。またこれらと遺言を組み合わせることで、自分がどんな状態になった時にでも、財産の管理から分配、相続までをスムーズに進めることができます。
[図表]各種の財産管理表 ポイント・組合せ!