前回は、アメリカ人が「賃貸住宅」よりも「マイホーム」を選ぶ理由を解説しました。今回は、アメリカ不動産取引の特徴について見ていきます。

世界トップクラスの透明性を誇る不動産取引

アメリカの不動産取引は世界トップクラスの透明性が確保されています。総合不動産サービス大手のジョーンズラングラサールが隔年で発表している「グローバル不動産透明度インデックス」(2016年版)では、日本が19位という順位に対して、アメリカはイギリス、オーストラリア、カナダに次ぐ4位です。なお、先ほどあげた新興国ではマレーシアが28位、タイ38位、インドネシア45位、ベトナム68位です。

 

 

[図表]2016年版グローバル不動産透明度インデックス

(出典)Jones Lang Lasalle Incorporated
(出典)Jones Lang Lasalle Incorporated

 

日本とアメリカの不動産取引には、どんな違いがあるというのでしょうか。日本では、しばしば欠陥住宅が話題になります。建て付けが悪く、ドアが閉まらなくなった。湿気がひどく、水回りがカビだらけだった。床下にシロアリが大量繁殖していた。リフォームのために壁を壊してみたらゴミが出てきたなど、その欠陥はさまざまですが、このようなトラブルが発生するのは、1つの不動産会社が売り手と買い手の双方の代理人を務める、いわゆる〝両手取引〞が一般的であることも理由の1つでしょう。両手取引の場合、当然、不動産会社としては不利な情報を隠して高値で売却したほうが高い仲介手数料が入ってきやすくなるからですが、日本ではこのようなモラルハザードが起こりやすい環境があるのも事実です。

 

ところが、アメリカではほとんどのケースで売り手と買い手の双方に、別々の代理人(不動産会社)が付きます。さらに、決済事務などを第三者のエスクロー業者が担います。詳細は後述しますが、売買に際しては不動産鑑定も入れて、物件の状況に関するレポート等を作成して売り手と買い手の双方で情報共有も図られます。このようにして情報の透明性が確保されているため、買ってみたら瑕疵(かし)が見つかったというケースは非常に少ないのです。

アメリカでは「契約書に書かれていること」がすべて

よくいわれるように、アメリカは「契約社会」です。すべてにおいて契約が優先される傾向にあります。これは特有の「慣習」が深く根付いている日本の不動産業界とは大きく異なります。例えば、日本では賃貸住宅に住むと、契約更新の際に「更新料」が請求されます。これは慣習の1つです。

 

一方、アメリカでは、契約書に書かれていることがすべてです。契約書に「毎年3%ずつ家賃を上げる」と記載さえすれば、そのとおり請求する権利がオーナーにあります。借り主がこれを履行できなければ、すぐに契約解除することも可能なのです。日本の契約では2年更新が一般的ですが、アメリカは単年度契約です。1年経って新たな契約書を交わす際に、オーナーが提示した条件を借り主が了承しない場合には、すぐに出ていってもらうよう要求することも可能なのです。

 

 

実際、アメリカに赴任していた金融関係の方から次のような話を聞かされました。その人は、2年ほどアメリカ人がオーナーの物件に住んでいましたが、3年目の契約更新の1カ月前に、オーナーから「家を建て替えることにしたから出ていってくれ」と言われたそうです。日本の不動産取引の慣習でいえば、借り主の立場を無視した横暴な要求です。その人は1カ月で新たな住まいを探さなければならないのですから。何とかもう1年だけ住みたいとお願いしても、オーナーは首を縦に振りません。結局、その人は想定外の転居を余儀なくされたため、引っ越し代を勤め先の会社に持ってもらったそうです。

 

これを日本に当てはめてみましょう。まず、「建て替えるから出ていってほしい」と言ったら、立ち退き料を要求されることもあります。日本では借地借家法に基づいて、借り主の保護が手厚くなっています。3カ月間家賃を滞納して初めて、オーナーは立ち退きを請求することができます。それでも出ていかない場合はさらに3カ月後に、裁判所に強制退去を申し立て、その判決をもって正式に強制退去させられるようになるわけです。当然、半年以上も家賃を滞納した人から、滞納分を満額徴収することは簡単ではないでしょう。裁判費用もオーナー持ちとなることが大半です。消費者保護が行き過ぎて、このような滞納リスクに頭を悩ませるサラリーマン大家さんは少なくないのです。

 

ところがアメリカでは、家賃を滞納すれば、即刻追い出すことが可能です。契約書にその旨を必ず盛り込むからです。このような「契約社会」がオーナーだけに有利に働くとはいいません。もちろん消費者保護も重要だからです。しかし日本では、賃貸住宅の借り主は収入が低く弱い立場で、オーナーは資産家で強い立場という風潮が根強くあり、結果、オーナーにとっては厳しい環境になっていることは間違いありません。借り主が契約を履行できなかった場合には、それに見合った対処ができるという点で、アメリカはオーナーにも借り主にもフェアな国なのです。

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    本連載は、2017年8月31日刊行の書籍『戦略的アメリカ不動産投資』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    戦略的アメリカ不動産投資

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    井上 由美子

    幻冬舎メディアコンサルティング

    日本人の多くが将来の不安を打ち消すために、せっせと預貯金に励んでいます。今の日本は、将来に対する過度な悲観論がデフレマインドを助長し、本来あるべき経済の成長を押しとどめているように感じています。国の健全な経済の…

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