認知能力の低下が招く様々なトラブルとは・・・
現在のお年寄りたちは、第二次世界大戦の敗戦から立ち上がり、世界から「奇跡的」といわれた経済復興を担う役割を果たしてきた人たちです。社会のため、家族のために一生懸命生きてきたのに、認知症になったことで、はからずも周囲にトラブルを引き起こしかねない事態になるとは、非常に残念なことです。
筆者も弁護士として、認知症の患者さんのご家族や関係者の方たちから、主に財産にまつわるトラブルのご相談を多数受けてきました。そのたびに「こうなる前に何とかできなかったのだろうか」という思いを強くするようになりました。
そんなとき、ある制度を活用することによって、実に多くのトラブルが回避できることに気がついたのです。それが、この本のテーマとなっている、成年後見制度の中の「任意後見」という制度です。ではまず、任意後見制度を含む、大きな枠組みとしての成年後見制度についてご説明しましょう。
判断能力の不十分な人たちを保護する制度として創設
成年後見制度は、2000年4月、介護保険制度の施行と同時に始まった、比較的新しい制度です。認知症の高齢者のほか、知的障害者や精神障害者など、判断能力の不十分な人たちを保護し、人間として尊厳ある人生を全うするためのものとして創設されました。
例えば、認知症等によって判断力が不十分な人たちは、預貯金や不動産など自分の財産を管理したり、自分に必要な介護サービスを選んだり、介護施設への入所手続きを自力で行ったりするのが困難な場合があります。
また、判断力が十分でないために、自分にとって不利益な契約であっても、そのことを理解し判断することができずに契約を結んでしまい、詐欺や悪徳商法などの被害を被る恐れもあります。このような事態から、これらの人たちを支援・保護するものとして、法律に基づく成年後見制度が創設されたのです。