「消費税」をめぐって税理士が訴えられる例は多い
消費税を取り巻く様々な状況から自分の身を守るという意味で、会計実務を担うパートナー選びは重要です。パートナー選びを間違ったことで、痛い目を見た事業者がたくさんいます。
たとえば、株式会社日税連保険サービスが発行する「税理士職業賠償責任保険事故事例(2014年度版)」には、次のような事例が報告されています。適宜注釈を加えつつ抜粋して、3例を紹介します。
●「消費税課税事業者選択届出書」の提出失念により過大納付となった事例
平成22年2月、税理士は依頼者法人の設立(資本金2000万円、決算期3月31日)とともに関与を開始しました。依頼者法人は農業関連事業を行う組合法人で、設立当初は売上はほとんどなく、第3期には補助事業による多額の機械設備の取得を予定していました。この計画について、税理士は代表理事より事前に説明を受けていました。
平成24年5月、税理士は第3期(平成24年3月期)の消費税確定申告書を提出したところ、6月、税務署より免税事業者である旨の連絡を受けました。このとき、「消費税課税事業者選択届出書」を平成23年3月31日までに提出しなければならなかったのに、失念していたことが発覚しました。
「消費税課税事業者選択届出書」というのは、免税事業者が課税事業者として消費税確定申告書を提出したい場合に、期限内に提出しておかなければならない書類です。これをすることによって、免税事業者でも消費税確定申告を経て消費税の還付が受けられます。
届出書の出し忘れが発覚した後、税務署担当官と救済の交渉を行いましたが救済は受けられず、税理士は依頼者から損害賠償請求を受けました。
●「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」の提出失念により過大納付となった事例
合併法人である依頼者の平成25年9月期の消費税について、原則課税が有利であるにもかかわらず、税理士が届出書の確認を怠りました。そのため、過去に提出されていた「消費税簡易課税制度選択届出書」の効力により、不利な簡易課税での申告となってしまいました。
これによって有利な原則課税と不利な簡易課税との差額分の損害が発生し、税理士は依頼者から損害賠償請求を受けました。
●消費税の課税区分を誤ったことにより過大納付となった事例
税理士が依頼者の賃貸収入についての消費税申告を行う際に、賃借人が法人名義である収益物件についてはすべて事業者用建物の賃貸契約であると考え、消費税の課税取引として申告を行っていました。
ところが、担当者の変更により改めて依頼者の契約書を確認したところ、すべて事業用借地権の賃貸料であることが判明し、誤認が発覚しました。
税理士は課税・非課税等の区分を誤認したわけですが、この誤認がなければ、そもそも依頼者は免税事業者であり、消費税の納税義務はなかったのです。税理士が事実関係を契約書などで確認しなかったことによるミスです。
結局、直近の数年は更正の請求等が認められたため依頼者の損害は回復しましたが、それ以前の過大納付消費税額等について、税理士は依頼者から損害賠償請求を受けました。
「経営の中身」に関心を持ってくれる人物を選ぶ
こうしたトラブルに備えて、税理士は「税理士職業賠償責任保険」に加入しています。保険に入っておかねばならないほど、消費税のトラブルは日常的に起こっているということなのです。
消費税を巡る事故の多くは、税理士の不注意やクライアントとのコミュニケーション不足から起こっています。税理士選びでまず大事なことは、クライアントとのコミュニケーションを面倒くさがらず、クライアントの会社や経営の中身に関心を持ってくれる人物であることです。
顧問会計士・税理士を選ぶとき、知り合いから紹介された、近所の事務所を適当に調べた、インターネット上の情報のみで選んだ、紹介会社に頼んで紹介してもらった、先代からの縁で引き続きお願いした、ということはありませんか? 安易な選び方をすると、ミスマッチが起こりがちです。
また、「公認会計士・税理士だから」「税やお金のプロだから」といって肩書だけで信じると、外れくじに当たってしまうこともあります。十分な実務の力がない人、クライアントへの誠意がなく、目の前の仕事さえ片付ければいいと思っている人、自らを過信して反省したり勉強したりすることのない人もいるので、その見極めには特に慎重になっていただきたいと切に願います。