経費の見込みなども考慮し、慎重に選択する
消費税の納税義務が生じたとして、原則と簡易のどちらも選択できる場合、どちらを採用したほうが「お得」かを考えていきましょう。仮にサービス業を営んでいる事業者を例にとります。サービス業の場合、簡易課税を選択するとみなし仕入率は50%ですから、この事業者の納税額は「消費者から預った消費税の半分」ということになります。
さて、この事業者の売上のうち70%を、給与などの不課税取引が占めていたとしましょう。すると、残りの30%に支払った消費税が含まれていることになります。ということは、消費者から預かった消費税から控除できる額は、必ず30%以下の金額です。つまり、納税額は「消費者から預かった消費税の70%以上」になってしまいます。
こうして考えると、この事業者のケースでは簡易課税制度を選んだほうがお得ということになります。
同じ事業者でも原則課税を選んだほうが有利になる場合もあります。たとえば事務所を新築したり、機械を買い替えたりなどの大がかりな設備投資をした場合です。
建物の建築や機械の購入には消費税がかかります。消費者から預かった消費税より事業者が支払った消費税の額が大きくなった場合は、原則課税で計算すると消費税が還付されます。しかし、簡易課税では、実際に支払った消費税は無視されるので、実際に消費税の払い過ぎがあっても還付は受けられません。事業者自身が大きな消費を計画している場合には、簡易課税制度をやめて原則課税制度を選ぶようにしたいものです。
ただし、簡易課税制度は一度選択すると、2年間は変更ができません。また、止めるときには「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を税務署に提出しなくてはなりません。その場その場の思いつきでは、原則課税と簡易課税の切り替えはできないからこそ、綿密な事業計画を立てておかねばならないでしょう。
いずれかを選択するにしても、自社の現状と将来の事業計画、売上・経費の見込みなどを考え合わせてシミュレーションし、慎重に検討する必要があります。選択ミスを犯して後悔しないためにも、消費税の実務に慣れたプロの手を借りることをお勧めします。
中小企業のための「消費税転嫁対策特別措置法」とは?
消費税の話題で、もう1つ触れておかなければならない重要事項があります。それは2013年10月1日から施行された「消費税転嫁対策特別措置法」です。この特別措置法は、中小企業や小規模事業者が安心して消費税を転嫁(上乗せ)するための法律です。
消費税は、取引の各段階で課税され、各段階の事業者が分担して納付するのがルールです。しかし、実際には各取引の段階で、取引先との力関係など様々な理由から、消費税が正しく転嫁できないことがあります。
消費税の仕組みでは、税率分を単純に価格に上乗せします。税率8%のとき税込108円で売っていたものは、消費税が10%になると税込110円になるのが当然です。しかし、今まで108円だったものが110円になると、買い控えをする消費者が出てきてしまいます。
売り手の企業はこれを回避するために、増税後も108円のままで売ろうと考えるでしょう。そのとき、差額の2円をカバーするために各取引段階で交渉が行われるわけですが、その交渉では往々にして企業間の力関係が働きます。
大規模小売業者が自分より立場的に弱い中小企業等に差額分を押し付け、負担させるのです。たとえば、中小企業等が商品を納入するときに、仕入値を減額したり、安く買いたたいたりするといったように。あるいは、商品の減額や買いたたきを拒否すると、取引を中止されるなどの報復をされることもあります。
過日、消費税が5%から8%になるとき、このような大規模小売業者による消費税転嫁拒否が懸念されました。そこで、被害を受ける中小企業をなくそうと作られたのが、「消費税転嫁対策特別措置法」です。
この法律ができたことで、次の行為が禁止されます。
●減額または買いたたき(例)消費税の引き上げ分の値引きに協力させる
●購入強制もしくは役務の利用強制、または不当な利益提供強制(例)消費税の引き上げに応じる代わりに、自社の商品の購入を迫る
●税抜き価格での交渉の拒否(例)増税分の増減が分かりにくい税込単価でしか交渉に応じない
●報復行為(例)公正取引委員会に通報したことを逆恨みし、取引を中止する
悪質な違反が起きたとき、政府の公正取引委員会が取り締まり(勧告・公表)を行います。企業名が公表されれば企業イメージや信用が失われるため、違反行為の抑止力として働きます。もちろん大企業と中小企業間の取引だけでなく、中小企業同士の取引も対象になります。
消費税の再増税を控えた今、自分の身を守るためにもガイドラインなどを熟読し、取引上の不備や是正すべき点がないかを改めて確認しておくことを提案します。