グループ会社の連帯が重要となる「多重代表訴訟制度」
会社法が新しくなって初めてとなる今回の改正は、特に気をつけたい点が4つあります。
①多重代表訴訟制度が新設された
今回の改正で最も注目されているトピックがこれです。多重代表訴訟制度とは、親会社の株主が子会社の役員の責任について株主代表訴訟ができる制度のことです。100%出資子会社がある会社や資産管理会社がある場合には、少し注意が必要です。
中小企業でも株式が多数の株主に分散し、会社の実権を巡って争いになることがあります。こういう場合、ほとんどのケースでは数の力によって、多数派株主が推す経営陣による経営が行われることになります。すると、少数派株主がその経営に不満を抱き、「経営陣が不当な経営によって会社に損害を与えている」として損害賠償請求訴訟を起こす動きを取ることがあります。
従来の会社法では、親会社と子会社は別法人であることから、法人の垣根を越えての訴訟は起こすことができませんでした。しかし、今回の改正では、法人間の垣根が撤廃されたのです。子会社の取締役による不当な経営があった場合、親会社の株主が子会社の取締役に対して損害賠償請求を起こすことができるようになりました。
株主にとっては実力のない経営陣を排除することができる、ありがたい改正ではありますが、一方で濫訴の恐れも孕んでいます。次々に経営陣が変わり、会社としての方向性が失われる事態にもなりかねません。これまで以上に、グループ会社の連帯が重要になってくるでしょう。
ちなみに、代表訴訟を提起する場合の要件をまとめておくと、次のようになります。
A社を親会社、B社を子会社として、
●A社がB社の株式を100%所有していること
●A社の総資産のうち、B社の株式の帳簿価額が20%を超えていること
●A社の株主が同社の議決権または発行済株式の1%以上を、6カ月以上継続して有していること
②特別支配株主の株式等売渡請求制度(スクイーズアウト)が新設された
特別支配株主とは、会社の株式の90%以上を保有している株主のことです。スクイーズアウトの制度が新設されたことによって、特別支配株主が少数派株主の株式を強制的に取得できるようになりました。
この制度の有用な使い方としては、たとえば株主が死去して経営に相応しくない相続人が株主になった場合に、その相続人から強制的に株式を買い取る、といったようなことができます。
改正前の会社法にも相続人に対する売渡請求の制度がありましたが、使い勝手が悪いなどの理由から、あまり利用されてきませんでした。今回の改正では、かなり使い勝手よく改善されており、制度を利用することによるデメリットも特にありません。
中小企業では会社の相続や事業継承の際などに株式が分散しやすく、経営者が会社をコントロールしにくくなる場面がしばしば見られますが、この制度を利用すれば経営者に株式を集めることができ、経営の一本化・安定化を図ることができます。
「社外役員の要件」も厳格化へ
③監査役の監査範囲を会計監査に限定している場合、登記が義務になった
定款で株式の譲渡制限を定めている株式会社は、監査役の監査範囲を会計監査に限定するか、業務全般についての監査の権限(業務監査権限)を持つかを決めることができます。多くの中小企業では、監査役は会計監査のみ担当するものとしています。今回の改正で、監査役が会計監査のみを担当する場合は、その旨を登記して明らかにしなければならなくなりました。
平成27年5月1日以降に就任または再任した監査役について、その役員変更の登記を申請する場合には、併せて「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある」旨を登記申請する必要があります。
登録免許税は、監査役の就任または退任に関する登記と合わせて3万円(資本金の額が1億円以下の会社については1万円)です。
④社外役員(取締役・監査役)の要件が厳格化された
社外取締役・社外監査役を選任している会社は、社外役員の要件を満たすかどうかの見直しが必要になりました。また、新しく社外役員を選任する場合も、要件を満たしている者しか選任できません。
中小企業では親会社や兄弟会社の関係者が社外役員になったり、関係者の近親者がなったりすることが多かったのですが、要件ではこれを禁じています。役員の人材確保の点で、障害になってくるかもしれません。
他方で、過去10年の間、当該会社または子会社の業務執行取締役等になっていなければ、その者は社外取締役になることができるようになりました。