傷害死亡保険金を4社から勝ち取ったケース
前回に引き続き、税と法律に関わる成功例を紹介します。今回は、会社経営とは関係しませんが、税と法の間で、保険金を勝ち取った例を見ていきます。
ある日、私の事務所に突然、女性の訪問者がありました。相談の内容が法律と相続に関わることだったので、弁護士である妻と私で話を聞きました。
オーストラリアのパースの広大な自然公園で、日射病で死亡した兄について、損害保険会社が死亡保険金の支払に応じないとのことでした。その女性はある弁護士に依頼して、A保険会社に支払を請求する内容証明を出したところ、病気による死亡のため支払えないという回答があり、それ以上はその弁護士には頼れないとのことで、私の事務所を訪ねてきたということでした。
保険会社は4社契約していましたが、いずれも海外旅行保険や傷害保険、クレジットカードに付帯する保険でした。傷害保険は、病気による死亡は保険金支払の対象外です。
オーストラリアの現地大使館や死亡診断書(英文)等を時系列的に吟味しました。兄が発見されたときは死亡後2週間以上経過していましたが、死因は日射病となっていました。
確かに日射病であったかもしれませんが、発見が早ければ助かったはずです。埼玉県よりも広大なオーストラリアの国立公園なので、発見が遅れたことが原因であり、私たちの討議では、傷害による死亡であるため保険金は支払われるべきものであろうという結論に至りました。
その旨を裁判によらず、内容証明便により保険会社全社に発送しましたが、全社とも支払には応じられないとの回答です。そこで、今度は税法での対応の検討に入りました。
全保険金額を受領できたものとして相続税を申告し、納税も行います。ただし、万が一、保険金が支払われなかった場合は、更生の請求を行って払い過ぎた相続税は払い戻しが可能です。依頼者に私どもの見解を詳細に説明したところ、このように行いたいとの強い意志を表明されました。
1社の保険会社が支払に応じましたが、他の3社は応じなかったので再度こちらの主張を内容証明で発信。結果、3社が支払に応じることになりました。残る1社も、弁護士である妻がやむを得ず提訴する旨を通知したところ、最終的にはしぶしぶ支払に応じました。
相続税を納税した領収書を添付したことが効果を発揮したものと思われます。それだけ税務申告は評価されると解釈できるでしょう。
この件については御礼として、こちらからの請求額以外に100万円を持参してこられましたが、私は受け取れず、東松山ロータリークラブが交換留学生の面倒を見る取り組みに力を入れているので、そちらに寄付してもらうことにしました。日頃の筆者の思いの一助となったことに感謝しています。
法の改正点は多岐に渡り、中小企業の実務に影響する
連載の第1回でも紹介した消費税の増税や、第7回で取り上げた国税不服申立制度の一部改正の他にも、中小企業にとって看過できない法改正がありました。2015年5月1日から施行された「会社法の改正」です。また、1896年の民法制定以降、初めてとなる民法の抜本的改正も施行を間近に控えています。
このように中小企業を取り巻く法的な環境が目まぐるしく変化していく中で、経営者はどんな点に注意を払い、どのような対策を取ればいいのでしょうか? 今回は、変化する法改正のムーブメントを掴み、経営に活かすポイントについて話をしていくことにします。
まず、会社法の改正についてです。会社法は2006年5月1日に施行された新しい法律です。それまで商法の会社編や有限会社法をもって会社法と呼ぶことはありましたが、「会社法」という名前の法律は存在しませんでした。
この新しい会社法による3大特徴は、「有限会社制度の廃止」「最低資本金制度の撤廃」「取締役の役員が1人でよくなった」というものです。これによって会社の設立が格段にしやすくなりました。「資本金1円でも会社が作れる」「非公開会社なら、自分1人でも設立できる」として大きく話題になり、多種多様な会社が誕生したことを皆さんも覚えておられるでしょう。
今回の改正は、新しい会社法になって以来初の改正です。改正の主たる対象は上場会社で、その経営者に対する規律の重視が定められています。ただし、改正点は多岐に渡り、その影響は上場企業だけに留まりません。中小企業の経営や実務にも小さくない影響をもたらします。
次回は多くの改正点のうち、特に中小企業が留意すべき事項に絞って、要点を説明していきたいと思います。