前回は、会社法の改正事項のうち、経営者として気をつけるべき4つのポイントを紹介しました。今回は、実に120年ぶりとなる「債権法の民法改正案」で企業が取るべき対策について見ていきます。

契約時の「金利の取り決め」がより重要に

今回からは、民法の改正に話を移します。日本政府は2015年3月31日、債権法の民法改正案を閣議決定しました。これによって契約にまつわるルールが変わります。契約は企業にとって重要なものですから、改正点をきちんと理解しておく必要があるでしょう。

 

民法改正のポイントをまとめると、主に3つあります。

 

①法定利率の引き下げ、変動制の導入

 

金銭賃借などの契約で当事者同士が特に利率を決めなかった場合、「法定利率」が適用されます。現行は年5%ですが、これが3%に引き下がります。そして、3年ごとに1%刻みで見直しがされます。

 

取引先の支払が遅れた場合など、利息を請求する際の金額が現行よりも低い金額になってしまいます。回収予定金額より少なくしか回収できない事態が起こってくるため、今まで以上に契約時の金利の取り決めが重要になってきます。契約を交わす前に双方できちんと話し合い、明文化しておくといいでしょう。

 

支払の時効についても変更がなされます。現行では飲食代は1年、小売業の商品代金は2年、診察料は3年など内容によって時効がまちまちですが、これが「知った日から5年」に統一されます。

 

消滅時効期間は、現行の一般原則「権利を行使できる時から10年」がそのまま継続されます。

 

[図表1]債権の消滅時効期間

売主に対して欠陥品の修理なども請求可能に

②欠陥品に対する対応策

 

売買契約をして取り交わしたモノ(目的物)に瑕疵があった場合の、補償のルールが変わります。現行では、目的物が特定物(中古品など)の場合に、損害賠償請求や契約の解除ができるとしか規定されていません。モノの代わりに代金や賠償金が支払われるわけですが、買主にしてみれば「モノが欲しいのであって、お金を返してほしいわけではない」と納得できない思いになることもあるでしょう。

 

これを改善するために、改正法では、買主が売主に対して、欠陥品の修理や代替物への取り換えなどを請求することができるようになります。これを「追完請求」といいます。また、現行法では特定物に限っての適用でしたが、改正により不特定物にも適用されることになりました。

 

販売した商品に対する品質をとことん補償しなければならなくなるため、物販をしている会社は特に責任が大きくなることが予想されます。自社の製品の品質管理には、今まで以上に細心の注意を払うとともに、欠陥品が出た場合のフォローについてもマニュアルを作っておくことをお勧めします。

法人の借入れに際して保証人の確保が難しくなる!?

③個人保証の原則禁止

 

今回の改正で最も留意が必要なのが、これです。法人の債務については、代表取締役やその家族、他の取締役や従業員など、周囲の人を連帯保証人にするケースがあります。この場合、法人に返済能力がなくなると、連帯保証人が債務を被ることになります。

 

しかしながら、そのような多額の返済が個人にできるはずもなく、結局は破産に追い込まれる事態が多発しています。破産するとブラックリストに載ってしまい、7年間は新規借入などが困難となり、容易には復活できません。こうした巻き添え的な被害を防ぐ目的で、改正がなされます。

 

個人が保証人になる場合、その契約締結前1カ月以内に公正証書を作成し、「保証人になって、万一の場合には債務を履行する意思がある」という旨を表明しなくてはいけなくなります。公正証書での意思確認ができないときは、債務履行の効力は生じません。

 

本改正によって、安易に連帯保証人になる事態が防げますが、その一方で、法人の借入に際して保証人を確保することが難しくなります。

 

中小企業にとって運転資金の借入は、ほとんど避けられません。代表取締役だけの保証人で借入ができるのかどうか、非常に不安なところです。代表取締役だけではダメだとなったとき、果たしてどうするのかを今から考えておかなくてはならないでしょう。これまでの融資の方法を根本から変えることは一朝一夕にはできませんから、今すぐに動いて有効な策を練り始めてください。

 

[図表2]事業のための賃金の保証

本連載は、2015年7月30日刊行の書籍『低成長時代を生き抜く中小企業経営9カ条』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

低成長時代を生き抜く 中小企業経営9カ条

低成長時代を生き抜く 中小企業経営9カ条

真下 和男

幻冬舎メディアコンサルティング

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