今回は、アメリカFRBが「ゼロからお金を生み出したしくみ」について見ていきます。※本連載は、米国・ダートマス大学で公共政策・経済学を教えながら、全米ベストセラーとなった『経済学をまる裸にする(Naked Economics)』などの著書を持つ、チャールズ・ウィーラン氏の著書、『MONEY』(東洋館出版社)の中から一部を抜粋し、「お金」のしくみについて解説します。

ニューヨーク連邦準備銀行の部屋で、電子マネーを創造

前回の続きである。

 

ちょうど同じ頃、アメリカで起きていたことと対比させると、さらに興味深い。2008年の金融危機を受けて、FRBは金融システムに積極的に「流動性を注入」していた。流動性の概念については、後に詳しく見る。

 

いまおさえておきたいのは、FRBは手を尽くして金利を下げ、苦境にある銀行、事業、消費者たちが、不動産暴落後に簡単に信用にアクセスできるよう計らっていたという点だ。北朝鮮に匹敵する奇妙な部分はここだ:FRBはその任務を達成するとき、お金を新たに創造した。どこからともなく創ったのだ。

 

ニューヨーク連邦準備銀行には窓のない部屋があって、トレーダーたちがそこで電子マネーを文字通り創造して、数10億ドルの金融資産を買いつけた。2008年1月から2014年1月までの間に、FRBはおよそ3兆ドルの新しいお金を米国経済に供給している。(※1を参照)

(※1)www.federalreserve.gov/monetarypolicy/bst_recenttrends.htm を参照。

 

FRBの指示のもと、トレーダーがそれまで存在しなかったお金でさまざまな民間金融機関の持つ債券を購入して、電子資金をその企業の口座に移動させて証券の支払いをする。新しいお金。数秒前までは存在しなかったお金だ。カチッ。ニューヨーク連邦準備銀行でコンピュータの前に座っている男が10億ドルを創造して、シティバンクから資産を買うのにあてる音だ。カチッ、カチッ。これでさらに20億ドル。

お金を一掃した北朝鮮、生み出したアメリカ

北朝鮮の最高指導者が価値あるお金の価値をなくした一方で、FRBはその逆をやっていた:ゼロからお金を生み出したのだ。北朝鮮ウォンもアメリカドルも、内在的な価値はない。どっちの通貨も、発行元政府に持ちこんで、かわりに形あるもの(黄金、米、料理油など)を要求はできない(ただし少なくともアメリカでは、要求したところで強制労働収容所送りにはならないが)。

 

北朝鮮はお金を一掃できたし、アメリカは生み出せた。どちらの国でも、お金が紙や、(ますます増えつつある)コンピュータ上のビットやバイトにすぎなかったからだ。

 

そしてここから、北朝鮮がお金をだめにして、アメリカがお金を生み出していた頃に起きていた、三番目の奇妙な点に話は移る:アメリカの囚人たちは取引の多くにパック入りのサバを使っていた。そう、あの脂ののった魚、サバだ。

 

この話は次回に続きます。

 

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本連載は、2017年12月15日刊行の書籍『MONEY』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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