今回は、法定通貨が「繁栄」と「安定性」を促すといえる理由を見ていきます。※本連載は、米国・ダートマス大学で公共政策・経済学を教えながら、全米ベストセラーとなった『経済学をまる裸にする(Naked Economics)』などの著書を持つ、チャールズ・ウィーラン氏の著書、『MONEY』(東洋館出版社)の中から一部を抜粋し、「お金」のしくみについて解説します。

法定通貨はひどいハイパーインフレを招いたが・・・

筆者著書『MONEY』ではこの先で、法定通貨は繁栄と安定性を促すと主張する。黄金、銀、その他の商品に裏付けられた通貨を使うよりも、こっちのほうがうまくいっている。これは経済学者の圧倒的多数が賛同している通りだ。シカゴ大学ブースビジネススクールでは、さまざまなイデオロギーを持つ著名な経済学者たちを対象に、現代の政策問題について定期的に調査をおこなっている。2012年、ブーススクールでは約40人の経済学者たちにつぎの質問をした。

 

アメリカが現行の法定通貨のかわりに、一定量の黄金で裏付けられたドルを使うとしたら──つまり金本位制の復活だ──物価の安定と雇用面でみると、平均的なアメリカ人の生活は良くなるか? アメリカにとって有益だと答えた専門家が少しでもいただろう。答えはゼロ。一人もいなかった。(※1)ちなみにシカゴ大学ブースビジネススクールの経済調査(IGMフォーラムと呼ばれる)を筆者は何年も見守ってきたけれど、他の質問で回答が全員一致したことは一度もない。

(※1)“Gold Standard,” IGM Forum, University of Chicago Booth School of Business, January 12, 2012, http://www.igmchicago.org/igmeconomic-experts-panel/poll-results?SurveyID=SV_cw1nNUYOXSAKwrq

 

要するに、経済学者たちは(豊富な証拠をもとに)現代経済では内在的価値を持たない通貨のほうが、一定量の商品に固定された通貨よりはるかに望ましいと信じている。お金の決定的な特性のひとつが希少性であることを踏まえると、これはまったく直観に反した考え方だ。法定通貨はひどいハイパーインフレを招いた。

 

必需品を買うだけのために、通貨を山積みした手押し車をドイツ人が押している様子を写したワイマール共和国の時代の写真を見てるだろうに。これに対して、商品に基づくお金でハイパーインフレが起きた例は記録にない。理由は明らかだ。米、油、黄金の供給を数ヶ月のうちに100万パーセント増やすことはだれにも、ロバート・ムガベにもできない。

もし、新たに「完璧なお金」を創造できるとしたら?

この一見すると知的な矛盾に思えるものを理解するために、ちょっと理論的なまわり道をしてみよう。完璧なお金を新たに創造できるとしたら、どんなものになるだろうか。先述の3つの機能を果たす必要があるのは言うまでもない:会計単位、価値貯蔵手段、交換手段。そのためには、可搬性、耐久性があり、分割可能で、予想可能な希少性を持つ商品が求められる。

 

このすべての指標において、黄金は(小銭問題はあるが)みごとな成績だ。でも黄金にも欠点がある。すぐれた装飾品にはなるけれど、他の用途は限られているのだ。小隕石が落ちてきて、生涯の蓄えの黄金を持って地下室に閉じ込められても、特に豊かには感じられないだろう。これに比べて、水のボトルと、ビーンズ缶を抱えた人は、ビル・ゲイツのように見えてくる。

 

小隕石はさておき、黄金の供給は必ずしも経済全体と同じ比率で増加するとはかぎらない。北極の氷が溶けて、新たに金鉱床が現れたら、他の財に対する黄金の量が急増して、インフレになる。この新たな黄金の供給が経済成長率に遅れをとった場合は、デフレになる。供給量がちょうど適切な量──通常の状況で安定した物価をもたらす、経済成長と等しい比率──増えたとしても、世界の金の埋蔵量の大部分は、中国とロシアにある。最適通貨を創造するなら、お金の供給(マネーサプライ)の管理を、利害関係が自国と必ずしも一致しない外国勢力に委ねてはいけない。そんなわけで黄金にはいくらか問題がある。

 

かわりに袋入りの米か小麦など、別の商品を選んでもいい。小分けにできるし、ロシアや中国が仕切っていない。可搬性の問題はなんとかなる。袋入りの米や麦を貯蔵して、これらの資産に対して紙幣を発行する商品銀行を想像するといい。

 

この便利な紙幣、あるいはその電子版を利用すれば、あらゆる取引ができるし、現行のドルとはちがって、各証書を商品銀行で内在的価値を持つ商品と引き換えられる。こうして可搬性を持つ通貨で、予測可能な会計単位、まともな価値貯蔵手段(銀行はネズミから米を守れるものとする)ができあがり、ハイパーインフレの危険もない。

 

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本連載は、2017年12月15日刊行の書籍『MONEY』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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