株式投資に必要な資金が大きく引き下げに
株式投資は「新時代」に入ったと私は考えています。
何がどう「新時代」に入ったのか。それをつかむために、まずはこれまでの株式投資の動向を振り返ってみましょう。
株式投資の黎明期は、高度経済成長時代です。
この時代は企業の成長とともに、株価も長期的な上昇を続けました。そのため、キャピタルゲイン(売却益)がリターンを得る最善の方法でした。
現在のようにインターネット取引がなかったので、取引は証券会社に電話をして行うのですが、手数料は高く、1回の取引で購入代金の1%以上かかりました。
また、売買単位は1000株が普通だったため、1社の株を保有するのに100万円以上が必要なので、個人投資家はほとんど存在していませんでした。
ところが、1990年代の日本版金融ビッグバンで状況が大きく変わります。
当時の政策の柱として、市場原理が機能する自由な市場、すなわち「フリー」「フェア」「グローバルスタンダード」の3つが掲げられ、金融緩和政策が進みました。
個人投資家にも多くの恩恵が与えられました。
●外為法の改正(個人向け外貨預金の解禁。のちのFXに)
●証券取引法の改正(インターネット証券の誕生。手数料自由化)
●投資信託の窓口販売
●ラップ口座の解禁
●ペイオフ解禁
●ネット銀行の登場 など
金融ビッグバンによって「デイトレーダー」という新しい投資スタイルも誕生しました。
2000年に貯金やアルバイトで稼いだ164万円を元手に株式投資をスタートし、たった7年で資産を185億円まで増やしたBNF氏のような人も出てきました。
普通の大学生や主婦、フリーターが、アルバイトで貯めたお金を投資して、資産が数億円になったという話は、手数料が自由化される以前にはなかったことです。
金融ビッグバンのおかげで、投資への敷居が下がり、個人投資家の存在も大きくなって
いったのです。
成熟化の段階に入りつつある日本企業
きっかけはリーマンショックでした。
リーマンショックの発生により、上場企業の収益は急激に悪化していきます。
業績向上による株価上昇で投資家に還元するというストーリーを描けなくなった企業は、売却益よりも安定的な配当金や株主優待で株価下落を食い止めようとしました。
幸い、収益力は米国の景気回復とともに復活し、現在も株主還元額の増加傾向が続いています。
しかしながら、上場企業が株主還元を強化する背景には日本企業の成熟化があります。
製品ライフサイクル(Product life cycle)というマーケティング用語があります。下記図表1のように、製品が市場に登場してから退場するまでの間を黎明期、成長期、成熟期、衰退期の4つの段階に区切り、それぞれの期間で、どれだけ収益に貢献するかを表したグラフです。
[図表1]企業のライフサイクル
実は、製品サイクルと同じく、企業にもライフサイクルが存在しています。
●黎明期 introduction stage 商品が販売されてから徐々に売れ始めるまでの期間のこと
●成長期 growth stage 商品が最も売れる期間。利益がいちばん増えるときでもある
●成熟期 maturity stage 多くの消費者に商品がいきわたり、売上が増加傾向から減少傾向に変わる期間のこと
●衰退期 decline stage 売上、利益ともに大幅減少していく期間のこと
黎明期や成長期は会社がどんどん成長していくため、株価も同じように上昇傾向となります。しかし、成熟期に入ると成長力が鈍化します。売上も横ばいか、なだらかな減少傾向となり、株価も下落しやすくなります。株価が下がると、時価総額も低くなります。そうなると、買収されるリスクが高くなります。その他、時価総額が小さくなると、企業活動を続けていくうえでのデメリットがいくつも出てきます。
そのため、株価下落の防止策として、株主還元の強化に舵を切ります。
ご存じのとおり、日本は少子高齢化、人口減少社会に入っています。GDPもゼロ成長が続いていますが、将来的にはマイナス成長もあるでしょう。連動するように、日本企業も成熟化の段階に入りつつあります。
そのため、配当金の増加や株主優待、自社株買いなどの株主還元策に、ますます力を入れる企業が増え続けていくと私は予想しています。
配当金と並んで、個人投資家に人気の株主優待も、実施企業が増加し続けています(下記図表2参照)。
[図表2]株主優待実施企業数・実施率の比較
2010年度の株主優待実施企業数は1026社、上場企業全体の26.9%でした。
その6年後、2016年には実施企業数が1336社まで増加。実施率は34%まで急上昇しています。3社に1社が、何らかの株主優待を用意しているのです。
まさに今は、株式投資の「新時代」。個人投資家が主役の時代なのです。