条件によっては大きな費用がかかることも・・・
繰り返しますが、不動産運用において一番怖いのは空室です。いくら相場より安くお買い得な物件でも、いくら利回りが高くても空室が多ければ意味がありません。
この空室に対するリスクヘッジに一括借り上げ契約があります。
一括借り上げとサブリースを混同している人がいますが、前者は空室の有無にかかわらず不動産会社がオーナーから一棟丸ごと一定期間借り上げる方法で、後者はその物件を又貸し(転借)することです。一括借り上げの契約を締結すれば、たとえ空室が出たとしても毎月定額の家賃収入が見込めるので、オーナーとしては安心です。
もちろんこの契約は無料ではありません。一括借り上げの手数料の相場は、家賃の10%から20%前後といったところです。しかし、これで空室(=賃貸収入ゼロ)の恐怖から逃れられるなら安いものではないでしょうか。
ただし、すべての一括借り上げ契約がオーナーのメリットになるかと言えば、そうとも言えません。一括借り上げを行う会社は、主に収益物件を建てる建設会社か不動産管理会社になりますが、いずれの会社にしても自社の利益がなければ契約の締結は見込めません。そのため、手数料の割合や契約期間がケース・バイ・ケースとなることがほとんどです。
たとえば、立地条件が悪かったり築年数が古かったりする物件は、満室を維持するのが難しいため手数料が高めに設定されます。また、契約期間の相場は2年程度ですが、このような物件では1年ごとと短くなり、さらに契約更新の条件として手数料の増加や指定業者による修復工事を求められるケースもあります。
このように、条件によっては大きな費用がかかり、一括借り上げの恩恵が十分に得られないことが考えられます。ところが、あまり立地条件の良くない地域の地主などは「土地を遊ばせて固定資産税を支払うくらいなら、たとえそれでも・・・」と考えてしまい、このような厳しい条件でも契約を結ぶようです。
一括借り上げを行う業者が見込んだ物件=「魅力あり」
一括借り上げを行う業者は、管理会社も兼務しているのが一般的です。管理会社と同様に業者はいくらでも選べます。選択する際の目のつけどころは、「今回一括借り上げしてもらうことで目標とする金額にどうつながるか」と「どのように開業への足掛かりになるのか」を明確に説明できるかどうかです。
「割のいい手数料をもらえれば、管理はある程度いい加減でいい」と思っているようなやる気のない業者は論外ですが、物件を満室にすることを前提に手数料を設定し、「あなたが儲かったうえで私たちも儲けさせていただきます」というスタンスの業者を選ばなければいけません。正確な収支表の作成や定期的な状況報告は当たり前です。そのうえで「この部分をこのようにリノベーションすれば○○をターゲットにしたクリニックができますよ」といった医師オーナー向けの提案ができることが望ましいでしょう。
まじめに一括借り上げに取り組む業者は、契約する物件選びにも真剣です。駅からの所要時間、周辺の商業施設、建物自体の価値など、プロだからこその選択眼によって判断し、契約を締結するか否かを決定します。つまり、そういった会社が一括借り上げを決めた物件は、それだけで魅力があるというお墨付きを得たも同然です。
私の会社も一括借り上げを行っているのですが、その際には、毎月の収支表といった書面での業務報告と同時に口頭での業務報告、つまり直接のコミュニケーションも欠かしません。書類だけでは分からない細かな疑問点もすぐにフォローすることができるからです。
相手が信頼できる会社と判断できれば、一括借り上げ契約を締結したほうが手間も掛からず、安心できる不動産運用になります。
また、一括借り上げ契約を利用するメリットは、手間や空室リスクの軽減だけではありません。この契約によって所有する物件の地域を全国、または海外にまで広げることが可能になるのです。