今回は、親族外事業承継における、経営引き継ぎの3つのパターンなどを説明します。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

承継後、前社長は「徐々に会社から抜ける」ようにする

取引が実行された後は、売り手のオーナー社長は会社の所有権を失い、晴れて自由の身になる。

 

しかし、通常はそれで終わりというストーリーではなく、経営承継を円滑に行うため、取引実行後も一定期間は対象会社の経営に関与する取り決めが行われる。その関与の内容は、会社の内情や各種状況に合わせて違ってくるため、個々の事情に応じたものとなる。

 

買い手のほうは新しいオーナーとして引き継いだ会社の経営に着手することになるが、売り手のほうは経営を新しいオーナーに円滑に引き渡して徐々に会社から抜けることになる。

 

ここでは、段階的に会社経営から引退することが重要である。すなわち、適当な引継期間を設けて「社長交代したらそれ以降は一切会社に顔を出さない」といった急な動きをするのではなく、残された従業員や取引先が安心できるように、一歩引いた立場で前オーナー社長がしばらくは出社するような方法をとることが一般的である。

 

この時の前オーナー社長の役職をどうするのか、常勤にするのか非常勤にするのか、無報酬にするのか報酬ありにするのか、実際に何をやってもらうのか、いつまで関与するのか、といった条件については、売り手と買い手の意向を含めた個々の事情に合わせて決めておく必要がある。

代表権や退職金の取扱いなどがポイントに

その経営引き継ぎの方法として、第一に、売り手のオーナー社長が顧間として残るという方法がある。

 

これは、前オーナー社長が親族外承継(M&A)実行後に速やかに社長の座を降りて「顧問」に就任し、後任社長は買い手が決めて、新旧社長の引き継ぎに必要な期間として1年から2年程度を設定する方法である。

 

顧間として残る前オーナー社長は代表権を持たず、当初はほぼ常勤に近いとしても徐々に非常勤としていく。非常勤顧問となることで月額報酬は低くなるが、それゆえ、親族外承継(M&A)時に退職金を支払うことが可能になる。

 

しかし、この方法では、親族外承継(M&A)を行い前オーナー社長が退いたという事実が外部に対してすぐ明白になるので、そうした事実が取引先との関係に悪影響を及ぼすことが場合には適当ではない。

 

第二に、売り手のオーナー社長が会長に昇格するという方法がある。前オーナー社長が、親族外承継(M&A)後に会長に昇格し、後任社長とのツートップ体制で引き継ぎを行っていく方法である。前オーナー社長が親族外承継(M&A)の実行後すぐに一線から離れて顧間に退くのでは取引先との関係に悪影響が出るような場合には、この方法が有力である。会長になる元社長には代表権を持たせないケースのほうが多く、経営の引き継ぎが進むに連れて会長は非常勤とする。

 

この方法では、前オーナー社長が退任後も引続き重要な役員として残ることになるので、この時点で退職金を受け取ることができるかが問題となる。それゆえ、代表権を返上して会長に就任する際に、その勤務実体の変化と報酬額の低下の度合いを確かめておく必要がある。

 

第三に、売り手のオーナー社長が当面はそのまま社長として残り、次期社長は代表権を持つ役員として入るという方法がある。前オーナー社長が親族外承継(M&A)後も社長の座には留まるものの、後任の社長候補が代表取締役副社長や代表取締役専務といった代表権を持った役付き取締役として招聘されることになる。

 

前オーナー社長の事業意欲がまだ旺盛ながら事業承継問題を考慮して早めに親族外承継(M&A)を決断したような場合や、業界団体等との関係で業界経験のない新社長に交代すると支障が出るような場合、取引先との関係維持に細心の注意が必要な場合などに有効な方法である。

 

この方法では代表権の取扱いがポイントになる。すなわち、社長の代表権を残すのか、代表権のない社長として残ってもらうのかが問題となる。社長の代表権を残しておく場合には、会社経営をめぐって前オーナー社長と次期社長との間で綱引きが起こり、結果として対象会社の経営が混乱する危険性がある。

 

しかし、代表権のない社長とすることには違和感があり、実際にそうしているケースはほとんどない。

 

そこで、前社長の代表権は残すものの代表取締役の印鑑は次期社長が保管し、加えて経理部門の責任者は買い手側から派遣して財布の紐を握ることで経営の主導権が買い手にあることを明確にして、後々揉めることがないようにする方法を採る。

 

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