売り手は修正純資産法、買い手はDCF法での株価を望む
複数の公正価値の評価方法を適用して株価を計算し、複数の株価や株価のレンジが算出されることになることから、最終的にどの株価を取引価額として決定すべきなのかが問題となる。
近年、よくあるケースが、かつて優良企業であったが現在は衰退している会社の価値評価である。業歴の長い会社の場合、かつては高収益を誇っていたものの、現在は低収益に苦しんでいるという会社は珍しくはない。後継者不在の老舗企業にこうした会社は多いものである。その場合、基本的な評価方法は、修正純資産法によることが多い。このような会社の場合は、かつて稼いだ利益の蓄積が大きく、内部留保が膨らんでいるために、修正純資産法による評価では非常に高い株価となってしまう。
しかし、買い手にとって買収の目的は、「対象会社の将来キャッシュ・フローを買う」ことにある。その意味では、現在の収益性が著しく低い会社を、修正純資産法によって評価すれば割高に感じられることになる。このような会社を修正純資産法による株価で買いたいという買い手は現れないだろう。
買い手の感覚からすれば、いくら時価ベースでの資産が大きいといっても、将来キャッシュ・フローが生み出されないのであれば、投資を回収することができない。大きな投資をしても回収できないのであれば、その取引を実行する意味はない。
このようなケースでは、売り手は修正純資産法による株価を望み、買い手はDCF法による株価を望むケースが多いため問題となる。この場合、どこで折り合いをつけるかは交渉であるが、修正純資産法による株価を下回る取引価額でしか売れないことは確かであろう。
創業間もないベンチャー企業でも取引が成立する理由
それでは、逆に創業間もないベンチャー企業の場合はどうであろうか。このような新しい会社の場合、これまでの利益の蓄積がほとんどなく、評価対象となる資産が少ない。このため、修正純資産法で評価すると非常に低い株価となってしまう。しかし、将来キャッシュ・フローを生み出す可能性があるのであれば、事業価値は高い。
そこで、こうした会社は、DCF法による株価を重視することになる。
DCF法の評価のベースとなるのは、将来キャッシュ・フローである。ただし、このようなベンチャー企業の場合、予測した将来キャッシュ・フローが実現するかどうか、その不確実性、リスクが著しく高い。
そのため、単純にCAPMの割引率で割り戻すだけでは不十分である。少なくとも20〜30%、状態によっては30〜50%程度の高い割引率で割り引くことによって保守的に評価することが必要であろう。
買い手としては、現在は実態が見えないものを買おうというわけだから、ある意味雲をつかむような議論も多くなりがちである。それだけに、売り手としては根拠ある事業計画を提示できるかどうかが交渉のカギを握っているといえる。
なお、創業間もないベンチャー企業は投資が先行するため、債務超過に陥っているケースが多い。債務超過の会社は売れないのではないかと考えることが多い。
しかし、時価純資産ベースで債務超過であっても、将来キャッシュ・フローの割引現在価値をベースに事業価値を評価すれば、債務超過が解消する場合がある。そのような場合であれば、株式の公正価値がプラスに評価されるため、取引は成立するのである。
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