今回は、会社売却における「譲渡の実行(クロージング)」に必要な手続きを説明します。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

クロージング=株式の引渡し、譲渡代金支払いの実行

クロージングとは、株式譲渡の場合であれば、売り手から買い手への株式の引渡しと、買い手から売り手への譲渡代金の支払いを行うことをいう。

 

民法の原則に従えば、これら二つの行為は同時に履行されなければならないが、譲渡代金の支払いは通常、銀行振込みによって行われることから、送金に要する時間とその間のリスクに対応するための手当てが必要となる。それゆえ、譲渡契約書では、送金を確実に行うために、日時や場所の指定とともに詳細な手続きが規定されることとなる。

 

支払方法については、売り手の誓約事項において、クロージング後に義務が課されているものは、クロージング時点では譲渡代金の一部を支払い、その義務が履行された段階で残額を支払うという特殊なケースもある。

株式譲渡に必要な「法的な手続き」とは?

また、株式譲渡を行うには、株式と現金の受け渡し以外にも、以下のような法的な手続きが必要となる。

 

(1)株式譲渡承認の手続き

売り手が株式譲渡制限会社である場合は、取締役会(取締役会を設置していない会社の場合は株主総会)にて、買い手への株式譲渡を承認してもらう必要がある。これは株主からの譲渡承認申請にもとづいて対象会社が処理することとなる。

 

(2)株主名簿の書き換え

クロージングが終わると、すぐに株主名簿の書き換えを行う。株主からの名簿書き換え請求によって対象会社が処理することとなる。株主名簿の書き換えにより、株主の移動が法的に完了する。

 

(3)臨時株主総会の開催

通常、クロージング直後に役員の交代を予定しているため、クロージング日から遅滞なく新株主(買い手)による臨時株主総会を開催する必要がある。株主全員の同意があれば総会の招集手続きは省略することができるので、買い手が100%買収する場合はクロージング日と同日に株主総会を開催することが可能である。株主総会では新旧役員の交代の決議のほか、退任する役員に退職慰労金を支給する場合には、それについても承認の決議を行う。

 

(4)取締役会の開催

新しい役員が選任されたあとは、取締役会を開催し、新しい代表取締役を選任する。ただし、取締役会を設置しない会社の場合は、代表取締役の選任も臨時株主総会の中で行う。

 

(5)商業登記の変更

臨時株主総会ならびに取締役会の決議が終了した時点で、役員の変更登記を行う。買い手のグループ会社としての商号へ変更するケースもある。売り手の企業オーナーの個人保証を外すためには、変更後の会社の登記簿謄本が必要となるので、役員変更登記は速やかに行う必要がある。

 

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