表明保証の正しさは「クロージング」の前提条件
売り手の表明保証は、主としてインフォメーション・メモランダムの中に記載した開示情報やデュー・ディリジェンスを通じて提供した情報に関して保証し、表明するものである。
たとえば、開示された財務諸表の正確性・完全性・網羅性、既に開示されている情報以外に対象会社の価値に悪影響を及ぼすような問題が存在しないこと、得意先との重要な契約が取引実行後にも継続すること、外部の第三者との間で係争事件が生じる可能性はないこと、土壌汚染などの環境問題が顕在化する可能性はないこと、税務署から過年度の申告を否認される可能性がないこと、重要な資産の所有権は有効に存在すること、買収に伴って重要な従業員が大量に退職してしまう可能性がないこと、その他会社の価値を毀損する恐れのある事柄が存在していないことが規定されることになる。
これらの表明保証が正しいことは、通常、クロージングの前提条件とされる。クロージング時点で表明保証に違反があることが判明すれば、買い手は売り手に対してその解消を求め、問題が解消されるまでクロージングしないことができる。
また、違反が軽微である場合には買い手の意向でクロージングすることもできるが、後から売り手に対して表明保証違反に基づく補償を請求することができる。
表明保証違反があれば、取引の中止・補償の請求も可能
そもそも、契約書で定められた取引条件は、契約締結時までに開示された情報(主としてデュー・ディリジェンスにおける開示情報)を通じて明らかにされた事実を前提として決められたものである。買い手は、その事実が正しいことを前提として評価された買収価額を支払って買収しようとしている。
しかし、その事実がクロージング日までに変化した場合や、デュー・ディリジェンスのときに正しいと思っていた事実が実は間違っていたことが判明した場合には、買い手は取引条件を見直す必要があるだろう。
それゆえ、表明保証した事項に違反があった場合には、クロージングの前提条件が充足されないこととなり、買い手は取引実行を中止することができる。
しかし、ここまで積み上げてきた交渉を白紙にして、また一から交渉をやり直すのは、買い手にとっても非効率な話だろう。そこで、違反が軽微な場合には、とりあえずクロージングしつつも、その違反に起因する損害を事後的に売り手に補償させる選択肢も設けられているのである。
[図表]表明保証違反があった場合の買い手の対応
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