「価格提示の攻防」が取引交渉の山場
売り手は、買い手候補からの意向表明を受け、基本条件の交渉を行う。すなわち、お互いに「これだけは絶対に譲れない」「妥協できない」条件を先に話し合うのである。特に、取引価額が最も重要な論点である。価格提示の攻防が取引交渉の山場だと言ってもよい。
価格交渉の基本原理は、いたってシンプルであり、売り手が最初に提示した価格と、買い手が最初に提示した価格の間で交渉が行われ、売り手の下限価格と買い手の上限価格の間において合意に至るプロセスである。
[図表1]価格交渉のメカニズム
従業員の継続雇用は、早い段階からの話し合いが一般的
価格に合意できれば、それ以外の譲れない条件についても確認しておく。売り手側から提示される条件として、対象会社の従業員の継続雇用がある。義理人情を重んじる日本的な文化のもとでは、価格条件よりも従業員の継続雇用を優先して交渉を行う企業オーナーも多い。このため、従業員の継続雇用や処遇維持は、基本合意のような早い段階から話し合われることが一般的である。
[図表2]従業員の雇用を重視する企業オーナー
オーナー経営者にとって、従業員の雇用に対する責任は非常に重い。親族外承継(M&A)した後、従業員が失業するような事態を招くと、後から従業員から恨まれてしまうかもしれない。企業オーナーとしても、親族外承継(M&A)後の個人的な評判を悪くはしたくはない。
ただし、従業員の雇用維持という条件は、買い手の会社経営における足枷となる。従業員削減による経営効率化ができないという不利な取引条件は、買い手の将来利益を食い潰すことになるからである。
一方、買い手側は、重要な知的財産権の移転、キーパーソンの一定期間の残留、主要得意先との継続取引など、それが失われてしまえば買収する意味がなくなってしまうほど重要な事業価値源泉の維持を提示してくる。
特に、優秀な従業員が会社の事業価値源泉となっている会社では、買い手候補は、会社で中核的な役割を担う有能なキーパーソンの退職リスクを懸念する。その際、キーパーソンが短期間で退職した場合には取引価額を減額するような取引条件が提示されることがある。
お互いが提示する基本条件に合意することができれば、交渉の山場は過ぎたと考えることができる。
しかし、この段階で相手方の「絶対に譲れない条件」を受入れることができない場合、残念ながら取引交渉は終了となる。
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