今回は、「売却希望価格」提示のポイントを見ていきます。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

初期段階では「売り手からの価格提示」を控える

買い手候補の社長に買収を提案した際、必ず聞かれる質問が、「いくらで売りたいのか?」というものである。売り手の価格目線が高すぎるような場合は、買い手として交渉を始める意味が無いからである。この質問にはどのように回答すべきであろうか。

 

この質問への回答は難しい。初期段階では、売り手と買い手の価格イメージは一致していない。そのような価格イメージが曖昧な状況で価格交渉を開始してしまうと、合意できる取引でも交渉の入口を間違ってしまう危険性がある。

 

それゆえ、初期段階では売り手からの価格提示は控えるべきである。この段階では、売り手の希望売却価格を伝えることよりも、むしろ買い手候補の関心を高めるための説明、事業・財務内容や経営戦略を説明することに注力すべきである。

しつこく値段を聞かれた際は「曖昧に答える」!?

それでもなお買い手から希望売却価格を問われたときには、以下のような曖昧なコメントにとどめておくとよい。

 

確実に売れそうな会社を強気で提案する場合には、例えば、「入札を行いますので、一番高い買収価格を提示して頂いたお相手と取引いたします。」、「将来の成長性を反映させた公正な評価額での売却を希望しています。」、「5年後にはEBITDAが2倍に成長することを予測しておりますが、現在の類似上場企業のマルチプル(倍率)が7倍ですので、来期予想EBITDAの7倍程度の評価が適正だと考えています。」と理路整然と答える。

 

これに対して、売れそうにない会社を弱気で提案する場合には、例えば、「清算価値である純資産価額をイメージしていますが、それを下回るからといって交渉に応じないわけではありません。」、「価格条件は全く考えていません。貴社へ事業を引き継いでもらうことが従業員の幸せになると考えています。」と謙虚に答えておくとよいだろう。

 

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