今回は、オーナー企業を従業員に承継させることが難しい理由を探ります。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

苦楽を共にした仲間に譲れるなら、社長も安心だが…

オーナーの親族内に適当な後継者が見当たらない場合、おそらく次に考えるのは、従業員の中に後継者にふさわしい者がいるかどうかということだろう。

 

これまで何十年と苦楽を共にしてきた仲間に会社を譲ることができれば、オーナーとしても責任を果たせたと感じることができるはずである。しかし、従業員に会社を譲ることにはいくつか難しい問題があり、それが可能なケースは非常に少ないのが実状である。

 

従業員に会社を継がせることのメリットは、会社をよく知っている従業員が後継者になることで、周囲の不安感が少ないこと、従業員でも経営者になれることを示すことで、従業員のモチベーションを高められることである。

 

経営者としての能力と個人保証を引き継ぐだけの財産のある従業員がいるのであれば、従業員に会社を継がせるべきであろう。無理に第三者に親族外承継(M&A)する必要はない。

個人で「高額な自社株式」を買い取ることは難しい

しかし、中小企業といえども、自社株式の評価は数千万円から数億円に上ることも珍しくなく、サラリーマンであった従業員個人がこのような大金を用意して株式を買い取ることは不可能に近い。

 

そのうえ、金融機関からの借入金に対しても、個人保証することが求められる。万が一、会社が潰れれば、すべての個人財産を失うことを覚悟すべき大きなリスクである。企業オーナーから自社株式を買い取ったり、借金の連帯保証人を引き継いだりするだけの財産と覚悟を持った従業員が存在しているケースはほとんどない。

 

また、オーナー一族が株式所有を続けることで株式買取り問題を先延ばしできたとしても、サラリーマンの従業員が会社の後継者となる資質を持つケースは意外と少ない。例えば、技術者としては優秀であるが、経営者としての能力や資質に欠ける従業員を後継者とすれば、業績が悪化してしまう危険性がある。

 

将来の会社の発展を思えば、資本を投入できる余裕のある企業の傘下に入り、経営者として能力のある外部の人材に経営を任せることは有益なことである。「自分が誰に継がせたいか?」よりも「会社の存続、取引先・従業員にとって誰が継ぐことが最適か?」を考えることが大切である。

 

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