今回は、賃貸物件から逃げた家賃滞納者との賃貸契約を解除した事例を見ていきます。※本連載では、徹底した現場主義で多くの賃貸トラブルを解決へと導いてきた太田垣章子氏の著書、『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)より一部を抜粋し、「空室」「滞納」など様々な賃貸トラブルの予防策と解決法についてわかりやすく解説します。

8か月も家賃を支払っていない滞納者

「何度も督促をしたのですが支払ってもらえず、どこに相談していいかわからないまま、気がついたらこんなに時間がたってしまいました・・・」

 

1棟のオーナーチェンジ物件(入居がある状態で別の家主から購入する物件)を、初めて購入された家主さんから、賃料滞納による明け渡し手続きのご依頼を受けました。滞納者は、すでに8か月も家賃を支払っていません。

 

購入からまだ1年弱の状態でトラブルに遭遇し、とても不安そうなご様子でした。

 

入居者の必要書類を確認すると、賃貸借契約書のコピーはあるものの、原本、さらに住民票や身分証もありません。残った手がかりは、入居申込書だけです。

 

そんなこんなで、とりあえずかき集めた情報によると、入居者は30代男性。この部屋には2年近く住んでいて、小さな子供を含めた3人家族でした。

 

子供がいるなら、予防接種や検診の都合上、とりあえず住民登録はしているはずなので、まずは住民票を請求してみました。すると1か月ほど前に、住民票を現場から異動させていました。・・・ということは、滞納督促を受けて夜逃げしてしまったのでしょうか。

契約解除には「解約書」「残置物放棄書」が必要だが・・・

状況を確かめに、現場へ行ってみました。

 

現場に人の気配はありません。集合ポストはチラシでぱんぱんになっています。ドアにはうっすら埃ほこりが溜まっていました。ライフラインも止まっているようです。この状態からすると、家賃が支払えず、そのまま転居してしまった可能性がかなり高くなりました。

 

次に、転居先の住民登録地へ行ってみました。その部屋の1階にある庭に、ビニールのプールが見えました。小さな子供がいるお宅のようです。しかし、集合ポストにネームプレートがありません。郵便物も見うけられなかったので、入居者の特定はできませんでしたが、住民登録があるので、「滞納者一家が住んでいるのでは」と強く感じました。

 

”住民登録にある転居先の住民が滞納者かどうか”焦点はそこにしぼられました。

 

転居先の住所へ行き、呼び鈴を鳴らしましたが、反応はありません。仕方がないので、事務所に戻って手紙を送りました。依頼された物件の賃貸借契約の解約書面と、室内の残置物放棄書、そして書類を送り返してもらう返信用封筒の同封も忘れません。

 

しかし書面が返送されてくることはありませんでした。同じ書面を準備して、再度、住民登録地に行ってみます。今度は晩ご飯の準備時間を狙ってみました。電気メーターががんがん回っていたので、室内に誰かいるようです。

 

呼び鈴を鳴らすと、居留守をつかわれ、室内からの物音も、一瞬で消えました。解約書と残置物放棄書がないと、裁判で契約の解約をする必要があります。そうすると、裁判の分だけ時間がかかるので、準備した手紙の封筒に、「これに署名押印して返送していただければ、もう来ません」と記載してドアポストにねじ込みました。

 

数日たった頃でしょうか、書面が返送されてきました。室内に入ってみると、退去した後で、残置物もほとんどありませんでした。訴訟をせずに早期解決ができた一件です。

2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド

2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド

太田垣 章子

日本実業出版社

アパート・マンション経営の多くのトラブルは「知識」さえあれば防ぐことができる! 15年間で2000件以上の問題を解決に導いた、現場を知り尽くした著者だからこそ書ける事例を紹介するとともに、賃貸トラブルの予防策・解決…

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