今回は、悪質賃借人への対応として「明け渡し手続き」の具体的な事例を見ていきます。※本連載では、徹底した現場主義で多くの賃貸トラブルを解決へと導いてきた太田垣章子氏の著書、『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)より一部を抜粋し、「空室」「滞納」など様々な賃貸トラブルの予防策と解決法についてわかりやすく解説します。

強制執行で退去させられるのは・・・

家賃滞納で明け渡し手続きのご依頼を受けたとき、一番神経を使うのは、「占有しているのは誰か」ということです。部屋には、契約者(だけ)が住んでいるとは限らず、これが最終的に強制執行できるかどうかに関係してくるからです。

 

悪質賃借人がいた場合、話し合いができなかったら、裁判で「明け渡し」の判決をもらいます。それでも退去してもらえない場合には、強制執行で室内の物を撤去し、鍵を換えて部屋にもう入れないようにして終了という流れになります。

 

このときにポイントとなるのは、誰に対して「明け渡し」を命じる判決だったか、ということです。強制執行で退去させられるのは、裁判で命じられた人だけです。

 

そのため、せっかく判決が出たのに、「強制執行ができなかった」、ということがないよう、誰に対して「明け渡せ」と命じてもらうのか慎重に検討すべきです。

独身男性のひとり住まいの部屋のはずが・・・?

現場へ行くと、ポストにはたくさんの苗字が。賃借人は独身男性のひとり住まい。部屋の間取りはワンルームです。

 

ポストには、色々な場所から、さまざまな人の名前宛の郵便物が転送で入っていました。郵便物の受け取りだけの部屋なのかな・・・そんな印象を受けました。

 

次に賃借人の住民票を取得してみると、現在の物件に住所移転はしていたのですが、すでにまた別のところへ住所が異動されていました。しかもこの物件での住民登録期間は、たったの2か月。怪しすぎるので、戸籍の附票を取ってみたらさらに驚きです。

 

数か月ごとに住所を転々としていたのです。本当に転居をしていたのか、それとも住民登録地だけを異動させているのかはわかりません。もともとの本籍地は沖縄なのに、どうして大阪近郊でこんなに住民登録地を異動させたのでしょう。

 

特定しないと訴訟が起こせないので、ひとつひとつ調査していきました。

 

最近の住民登録地を見に行っても、どこにも住んでいるような気配がありません。最後の最後、沖縄から大阪に住所を移転した場所に、滞納者はいました。

 

現場へ行くと、そこは共同風呂、共同トイレで小部屋がたくさんあるような物件でした。滞納者に直接会って話をしてみると、「自分はここ数年この場所で住んでいる」「契約書に書かれた字は自分ではないし、借りた覚えもない」「ホームレスとして公園で野宿していたとき声をかけられ、ここに住めるようになった」「ここに住んで毎月2万円をもらってる」「今の生活がありがたいので、面倒なことに巻き込まれたくない」とのことでした。

 

これは貧困ビジネス・・・? 深く入り込むと厄介なので、それ以上聞けませんでしたが、当事者と会えたので、賃貸借契約書の解約書と残置物放棄書をもらって完了。

 

賃貸借契約が終了したので、家主さんと部屋に立ち入ってみると、使われた形跡がまったくなし。トイレの便座には、消毒済の帯がついたままです。部屋をさらに探索すると、台所の流しに、大量の認印がありました。すべて名前が違います。荷物の受け取り場所としても利用していたのでしょうか。犯罪の匂いがぷんぷんする案件でした。

2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド

2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド

太田垣 章子

日本実業出版社

アパート・マンション経営の多くのトラブルは「知識」さえあれば防ぐことができる! 15年間で2000件以上の問題を解決に導いた、現場を知り尽くした著者だからこそ書ける事例を紹介するとともに、賃貸トラブルの予防策・解決…

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