前回は、母から相続した「祖父名義」の土地の相続登記をめぐる問題を紹介しました。今回は、その事例をふりかえり、円満相続に必要なポイントを解説します。
不動産を相続したら、速やかに「所有名義」を変更
前回の続きです。
もし、Eさんの従兄弟姉妹たちのうち、1人でも話し合いに応じない方がいた場合や、納得をしない方がいた場合、話し合いがなかなかまとまらず、長期化あるいはEさん名義に変更することが困難となっていた可能性があります。
また、そうでなくても万一、所在が不明で連絡が取れない方や認知症の方、未成年者がいた場合には話し合いを行なうことができないため、家庭裁判所に特別代理人や成年後見人などの選任手続きを申し立てることが必要となっていたかもしれません。
Eさんの場合は幸運にも、そのようなことにはなりませんでしたが、祖父が亡くなった後に、祖父の子全員が協力して、その土地の名義を祖父名義から母名義に変えておいてさえいてくれたなら、Eさんはその土地の名義を自分の名義に変更する際、わざわざ従兄弟姉妹全員に連絡を取る必要はなかったため、彼らを煩わずらわせることなくEさん単独で変更することができました。
相続登記は、いつまでにしなければならないという法律で定められた期限もなく、相続人同士でその不動産を誰が取得するか争いがないときは、行なわずにいても問題が顕在化しませんが、行なわないことにより数年、数十年後になってから問題が顕在化し、親族間に争いを生むリスクが潜んでいます。
不動産を相続した方は、ご自身のため、そしてご自身の相続人となる親族の方のために、相続した不動産の所有者名義をご自身名義へと速やかに変更しておくことをお勧めします。
遺言書には「家族同士の紛争」を予防する効果がある
遺言とは、亡くなられた方がご家族へ贈る最後のメッセージです。そのメッセージを認したためたものが遺言書。遺言書を書けと言われると、死を想起させられるようで、あまりいい気持ちではないかもしれません。
ですが私は、遺言書は概して家族同士の紛争を予防する効果があり、何より、ご自身の思いを実現することのできる、前向きなものだと思っています。そして、遺言書はなにも、死が迫った方だけが書くというものではありません。法律上は、15歳以上で意思能力が十分にある方であれば書くことができるのです。
ところで、遺言書は必ず書かなければならないものではありません。遺言書を書くかどうかはその人の自由です。そしてときには、遺言書を遺したことによって、かえって相続人同士に軋轢(あつれき)が生じてしまう可能性もゼロではありません(そのようなケースでは、遺言があってもなくても紛争が生じる可能性はありますが)。しかし、遺言さえしておいてくれたら争わずに済んだのに、という場面があるのも事実です。
汐留司法書士事務所 代表
司法書士
26歳で司法書士試験に合格したのち、登記、相続、裁判、それぞれを得意とする複数の事務所に勤務。独立後は士業の専門家集団である汐留パートナーズグループに参画し、ネットワークを強みに、相続に関するコンサルティングに力を入れる。
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連載円満相続の実現…事例に学ぶ「大切な資産」の守り方
一般社団法人さいたま幸せ相談センター 代表理事
不動産鑑定士
不動産鑑定士試験合格後、都内の不動産鑑定事務所において約2年間、主に外資系金融機関に対するバルクセール案件の評価、メガバンク依頼による関連会社間における不動産売買にかかる評価等、年間100件以上の案件を手がける。キャリアを積んだのち、遺言書の作成に向けた個人の不動産鑑定に携わったことでやりがいを感じ、相続案件をメインに手がけるようになる。
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税理士
24歳で税理士試験に合格し、27歳で税理士登録。実務経験に加え、専門学校の税理士講座で教鞭を執るほか、生命保険の営業も経験。相続税を究めた税理士として、顧客のニーズに沿った親身なオーダーメイドの相続対策を提案。年間150件以上の相続案件に携わる。
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GSRコンサルティング株式会社 代表取締役
大学卒業後、不動産売買仲介大手の東急リバブルへ入社。5年間不動産売買仲介業を経験し、その後は都内初の廃校再生事業を含む不動産再生ビジネス事業や、数百億円規模の不動産ファンドの運用、相続コンサルティングを行なう。
営業・管理・マーケティング・運用・相続と、不動産に関わる多彩な部門に精通、過去18年間で1000件を超える不動産・相続案件に携わり、現在は複数の会社を経営しながら全国で相続や不動産のコンサルティング活動を行っている。
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遺品査定士
ブランド品や宝石、アンティークを中心に、年間10万点を超える査定をこなし、培った真贋力を、生前整理・遺品買取に活かす。“丁寧で根拠のある価格説明”をモットーに、思い入れのある大切な“お品物”の橋渡し役として、常にお客様の目線でサービスを提供している。
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株式会社経営承継
代表取締役
会計コンサルタント、IT戦略コンサルタントを経て、大手人材紹介会社に転職。エグゼクティブクラスの採用を担当し、のちに流通・小売専門の人材紹介会社においてエグゼクティブ部門の立ち上げに参画。年間400名の転職希望者との面談を実施した。その後、日本で始めて中小企業の事業承継に関わる後継者紹介サービスを始める。
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