▲トップへ戻る
財務戦略の武器となる「戦略的貸借対照表」の活用術①

前回は、「企業規模」と「B/Sの規模」にバランスが求められる理由を説明しました。今回は、「戦略的貸借対照表」を活用して財務戦略を組み立てる方法を見ていきます。

財務戦略に「ウルトラC」は存在しない

P/Lの規模に合わせてB/Sの規模を整えるにあたり、どのような観点が求められるのだろうか。その答えを私なりに、「戦略的貸借対照表」としてまとめたのが以下の図表である。

 

[図表]戦略的貸借対照表

 

財務を勉強している経営者にとっては、いずれも基本セオリーで今更確認するまでもないと思うだろう。しかし財務とは企業の土台であり、その土台づくりは常に基本に忠実でなければならない。

 

財務戦略にウルトラCは存在しないのだ。だから財務を追求すればするほど原点回帰するようになる。

財務の安全性・健全性の評価には「当座比率」を活用

●流動資産

 

流動資産は最も現金化しやすい「当座資産」を中心に考える必要がある。ただし売掛金は回収不能リスクが常につきまとう。従って取引先の与信管理を徹底するとともに、売掛金を滞留させず、できる限り早期に回収する手立てを講じなくてはならない。この当座資産を中心にキャッシュフローを潤沢にしながら、適正量の在庫を確保すれば、その他の流動資産は不要である。

 

財務の安全性や健全性を評価するために、「当座比率(当座資産÷流動負債×100)」を経営の判断基準として活用していただきたい。これは当座資産と流動負債を比較することで短期の負債に対する支払い能力を分析する財務指標で、一般に「100%以上」が望ましい。危険水準は「80%以下」だが、このラインを下回る中小企業が少なくないのが実態だ。

 

売掛金や在庫の滞留状況をチェックする際、財務分析指標として「売上債権回転率」(年間売上高÷平均年間売上債権残高×100)、「棚卸資産回転率」(年間売上高÷平均年間棚卸残高×100)を活用するといいだろう。滞留債権、滞留在庫の有無・過小を判断する指標で、いずれも率が高いほど良好な財務状態を示している。

 

●固定資産

 

製造業の場合は土地・建物に加え、機械設備や車両も不可欠である。従って固定資産の取得は当然の事業投資と捉えがちだが、流動資産から固定資産に〝一段階落とす〞場合はその意味とリスクを熟考し、取得するかどうかの経営判断は覚悟を持ってしなければならない。

 

たとえば1億円の土地を現金で取得すると、当然ながら流動資産が1億円減少する。キャッシュが減ると財務が痛み、カネ不足に陥る危険性が高まるわけだ。そのリスクを承知で1億円の土地を現金で購入するなら、取得した固定資産がやがてカネを生んで事業が拡大し、最終的に1億円の投資を回収できるという鋭い読みがなければならない。

 

流動資産から固定資産に一段階落とすというのは、これが「投資」に他ならないからである。投資を回収できる成算もなく、ただ闇雲に取得するだけの場合、それは投資ではなく「投機」、もっとひどくいえば「博打」でしかない。

 

さらに流動資産から固定資産に一段階落ちた時点で、すでに価値が低下することも少なくない。新車を取得してナンバープレートをつけた時点でもう新車ではなくなるため、当然価値は下がり、タイヤがぐるりと地面を一周すれば売却価格はさらに低下する。これを踏まえて固定資産を博打で手に入れるのではなく、あくまで「投資」として取得する経営手腕が求められるのだ。

 

設備投資が過剰かどうかを判断する際には、「固定比率」(固定資産÷自己資本×100)を目安にするといい。これは固定資産が返済義務のない自己資本の範囲内で収まっているかを分析する経営指標で、「70%から100%以内」が望ましい。100%を著しく超過している場合は、借入金に過度に依存していることになるので財務戦略を見直す必要がある。

 

固定資産と負債のバランスを確認する場合は、「固定長期適合率」(固定資産÷[資本+固定負債]×100)も判断指標にしたい。これは固定資産が自己資本と固定負債の合計額の範囲内かどうかを確認する経営指標を指す。

 

目安は「100%以内」に抑えること。100%を超えた場合、固定資産の取得に短期借入金を活用している状況を示し、自転車操業に陥るなど財務的なリスクがあることを示す。

 

この話は次回に続く。

京都ビジネスコンサルタントセンター 代表取締役
税理士/経営コンサルタント/社会保険労務士/行政書士 

昭和10年京都生まれ。
昭和31年学卒、会計事務所勤務を経て、民間食品製造会社入社。
その後公的機関で経営指導員として企業診断、経営診断、経営相談・指導に従事。指導対象企業は1万5000社を超える。
昭和47年4月1日石原会計事務所を開業。同月14日京都ビジネスコンサルタントセンターを設立し、代表取締役に就任。会計事務所経営と併せて、43年間にわたり中小企業の経営助言・支援・指導に積極的に取り組む。
昭和56年、異業種組合たる仁智会事業協同組合の府認可・設立とともに代表理事に就任。京都府より委嘱された特別経営指導員および中小企業復興公社経営診断員として商工行政にも深くかかわり、京都商工会議所にて小規模事業者経営改善資金審査会の審査委員および同委員長を13年務め、延べ1万社以上の中小企業融資審査を行っている。
また京都府農業会議にも顧問として参画し、遊休荒廃農地の解消、集落営農・地域農場づくりにも力を注いでいる。

著者紹介

連載「万年黒字経営」を実現するための鉄則

本連載は、2017年3月16日刊行の書籍『どんな不況もチャンスに変える 黒字経営9の鉄則』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

 

どんな不況もチャンスに変える黒字経営9の鉄則

どんな不況もチャンスに変える黒字経営9の鉄則

石原 豊

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の企業の約7割は赤字という現実があります。現在の日本企業の回復基調はあくまでも一時的なものであり、ほとんどの中小企業は根本的な解決には至っていません。また、人手不足や消費の冷え込みといった課題があるように、…

 

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧