企業の総資産に対する最終利益の割合を示す「ROA」
仮に年間売上高1億円の商売をしている場合、B/Sの総資産が3億円では舞台が大き過ぎる。お金をかけて立派な舞台を整えたのにもかかわらず、その上で演じられる踊りが小さ過ぎるために実入りが少なく、投資した資産の回収不足となる。
B/S規模に比べてP/Lの規模が小さい――これは「総資産利益率」(Return On Assets:ROA)が低い状況を示している。総資産利益率とは企業の総資産に対する最終利益の割合を示す指標で、「企業の所有する資産がどれだけ多くの利益を生み出しているか」を示している。総資産利益率が高いほど少ない資産で多くの利益を創出、つまり経営効率が高い状況を意味するため、この率は一定範囲内で高いほど良い。
中小企業の場合(業種業態によって目安は大きく異なるが)、総資産利益率の目安は8%以上が「優良」、4〜7%が「普通」、2〜3%が「やや危険」、1〜2%が「危険」、1%未満は「危険(リスク大)」と見ていい。設備投資が求められる製造業の場合、他の産業と比べて総資産利益率は低くなる傾向があるのは致し方ない。
この総資産利益率は、次の計算式で算出される。
総資産利益率=(当期純利益÷総資産)×100
先ほどの企業(年間売上高1億円、総資産3億円)を当てはめてみよう。業種は製造業として、売上高当期純利益率を製造業者の平均値である1%と仮定すると、当期純利益は100万円。すると総資産利益率は「0.3%」となり、危険域という結果になる。
このように、総資産利益率が著しく低下している企業は生産性が悪化している上、企業によっては実力以上の負債を抱え、必要以上の資産を所有している可能性もある。
売上が低下するなどして資金繰りが悪くなれば、たちまち返済難に陥る危険性も否定できない。生産性を向上させる対策を講じるとともに、B/Sの規模を縮小し、P/Lの規模とバランスを整える対策が急務だ。
一方、年間売上高10億円の商売を目指しているにもかかわらず、B/Sの総資産が3000万円では舞台が小さ過ぎる。同じく製造業者で売上高当期純利益率を1%とすると、総資産利益率は30%を超えてしまい、ひと言でいえば〝欲張り過ぎ〞といっていい。総資産利益率は高いほど良いと前述したが、高過ぎるのは問題だ。
大きな商売をしたいけれど、カネがない―恐らく多くの中小企業はこの矛盾に苦しんでいるに違いない。
目指す踊りの規模があるのなら、借入金を戦略的に活用して財務を強化し、B/Sを相応しい規模にまで拡大する必要がある。そうすれば踊りと舞台のバランスが整い、事業投資を成功に導けるようになる。
P/Lの年商規模に対し、B/Sの規模の上限は110%
では、具体的にP/LとB/Sの規模のバランスはどの程度が相応しいのか。私の考えは次の通りである。
P/Lの年商規模に対して、B/Sの規模の上限は110%、下限は90%
私はこれまで延べ9万社以上の企業診断・審査に携わるなか、潰れる企業、生き残る企業、大きく成長する企業と、様々な状態にある企業の財務諸表を分析(経営診断・融資審査)してきた。
すると、業績が傾く企業に共通する財務諸表の傾向があることがわかった。潰れる企業はB/Sの規模がP/Lの規模に対して110%を超えているか、あるいは90%を下回っているか、そのいずれかで、前述のアンバランス企業と同じような例が多かったのだ。
反対に、厳しい経営環境のなかでも健全経営で生き続けている企業、堅実に成長を続けている企業は、前述の割合のなかでうまく商売をやっている。一見すると伸び盛りの企業はB/Sの規模が著しく大きくなりそうに思うが、P/Lの成長スピードとのバランスをうまく取りながら企業規模を拡大させているのだ。
この割合は、中小企業経営に長く携わってきた私自身の経験則から導き出した結論であり、この考え方で企業診断や経営サポートに携わり、多くの中小企業を救ってきた。中小企業の財務戦略に具体的な示唆を与えることができると確信している。