今回は、「商事信託」と「家族信託」の違いについて解説します。※本連載では、司法書士みそら総合事務所代表・酒井俊行氏の著書、『わかりやすい家族への信託』(すばる舎)から一部を抜粋し、認知症の財務管理対策と相続対策の両方に効果を発揮する「家族信託」の基礎知識をレクチャーします。

一番の違いは「受託者になるのが誰か」という点

次に、賢一さんから「家族信託は信託銀行でも扱っているのか」という質問がありました。やはり「信託」という言葉を聞くと、どうしても信託銀行や投資信託という言葉を連想してしまうようです。信託という同じ仕組みを使ってはいますが、投資信託と家族信託は全く別ものだと考えたほうがよいでしょう。

 

一番の違いは受託者になるのが誰か。つまり「財産の管理処分をするのは誰か」という点です。投資信託の場合は、信託銀行が受託者となって、財産の管理運用を行います。投資信託のように営利目的の信託は、「商事信託」と呼ばれています。

 

一方、営利を目的としない信託については「民事信託」と呼ばれ、「民事信託」の中でも財産を家族に託すものについては、特に「家族信託」と呼ばれています。

 

家族信託の場合は、家族が受託者となり、財産の管理を行いますので、家族の中だけで対応することが可能です。

 

投資信託の場合は、多くの投資家から集めた資金をまとめて一つ(ファンド)にして、株式や債券などで運用することにより収益を上げ、投資家に配分することを目的としていますので、効率的に財産を運用することができます。

 

収益を上げるには、専門的なノウハウが必要になりますので、信託をするにあたり、それなりの対価(管理手数料)を受託者である信託銀行に支払う必要があります。

 

家族信託の場合は、収益を上げるというより財産を管理するのが主な目的となりますし、家族を受託者にするので手数料を支払う必要はありません。

ニーズによって柔軟に対応できる「家族信託」だが・・・

投資信託のような商事信託を利用する場合には、あらかじめ用意された商品の中から、自分の目的に応じた商品を選択する必要がありますので、100%自分の希望に沿った商品があるとは限りません。

 

商事信託で信託会社に不動産を信託するような場合、信託会社も相応の利益を得ることを見込めなければ受託してくれませんので、どうしてもある程度の財産の規模が必要になります。

 

家族信託の場合は既存の商品を購入するのではなく、完全オーダーメイドで、家族ごとに新しく信託の仕組みを作りますので、それぞれの家族のニーズによって柔軟に対応することができますし、財産の規模が小さくても始めることが可能です。

 

ただし一般人である家族が受託者となりますので、その道のプロが受託者となる商事信託と比べると、財産の運用面では差が出てきてしまいます。

 

商事信託と家族信託を比較した場合、どちらかが絶対的に優れているということはありません。「家族の願いを叶えるのに最適な方法はどれか」という視点で選択することが大切です。

わかりやすい家族への信託

わかりやすい家族への信託

酒井 俊行

すばる舎

◎相続の前に、老後の生活をいかにサポートできるかが最も重要 ◎相談に行く前の基本知識 「家族信託ってどんなもの?」という疑問に、スッキリわかりやすく答える本 ◎家族のストーリーをもとに、「家族信託」の検討から設計…

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