今回は、信託の対象となる財産、ならない財産について見ていきます。※本連載では、司法書士みそら総合事務所代表・酒井俊行氏の著書、『わかりやすい家族への信託』(すばる舎)から一部を抜粋し、認知症の財務管理対策と相続対策の両方に効果を発揮する「家族信託」の基礎知識をレクチャーします。

財産的な価値がある、あらゆる財産が信託の対象に

どのような財産を信託の対象にできるのかをここで確認しておきたいと思います。

 

原則的には財産的な価値のある、あらゆる財産を信託できるとされています。したがって不動産、金銭、動産、自動車、株式、債権、特許権などの知的財産権も信託することが可能です。

 

逆に、借金などマイナスの財産は、信託の対象とすることができませんし、「年金受給権」や「生活保護受給権」のように、その人だけに認められた権利も信託の対象にはできません。

 

簡単に言うと、「誰かにあげる(譲渡する)ことができるプラスの財産」は、信託の対象とすることが可能です。

 

次に信託されることの多い財産について、具体的に紹介します。

 

信託されることの多い財産① 金銭

 

金銭は信託が可能です。現金を信託する場合には、金額を指定して受託者に現金を引き渡すことで信託の対象とすることができます。

 

ただし、預貯金については信託の対象とすることができません。銀行口座は誰かにあげる(譲渡する)ことができないからです。

 

例えば、A名義の銀行口座を、Bに譲渡し、Bが同・口座の名義人になって利用することはできません。法律上、金融機関の預貯金口座に入っているお金は、現金ではなく債権(預貯金債権)として扱われるものだからです。

 

各金融機関は「約款(やっかん)」によって預貯金債権を譲渡することを禁止していますので、家族信託を利用するような場面でも、預貯金をそのまま信託の対象とすることはできません。

 

そのため、預貯金口座に入っている金銭を信託の対象としたい場合は、口座に入っている金銭を引き出したり、信託用に作った口座に送金する手続が必要です。

信託できる株式は「非上場株式」に限られる

信託されることの多い財産② 不動産

 

不動産も信託可能です。自宅(自己居住用の不動産)を信託の対象とすることもできますし、投資用のアパート(賃貸用不動産)も信託の対象とすることが可能です。

 

信託後に毎月継続的に発生するアパートの家賃収入も、信託の対象とすることができます。

 

不動産を信託の対象とする時は、不動産の名義を委託者から受託者に変更する手続をする必要があります。抵当権がついている(ローンが残っている)不動産についても名義を変更(所有権移転登記)すること自体は可能です。

 

ただしローン契約(金銭消費貸借契約)をした時の金融機関との契約書には、「不動産の名義を変更する際、金融機関の承諾を必要とする」旨の条項があることがほとんどです。したがって、抵当権がついている(ローンが残っている)不動産を信託の対象とする際には、金融機関との事前協議が必要となります。

 

信託されることの多い財産③ 株式

 

株式も信託の対象とすることができます。ただし、上場株式については信託できないのが実情ですので、今のところ信託できる株式は、非上場株式(主に自社株式)に限られます。上場株式(証券取引所で売買できる株式)を売買するには、証券会社に自分の証券口座を作る必要がありますが、ほとんどの証券会社で家族信託に対応できていない現実があるからです。将来的には、証券会社も家族信託に対応してくれるのではないかと期待しています。

 

ちなみに有価証券の例で言うと、本人名義の投資信託を家族に信託しようと考えても証券会社が対応してくれないのが現状です。

 

一般に取引されていない非上場株式であれば、信託の対象とすることができますので、株主であるオーナー社長の認知症対策や事業承継に活用することができます。

 

株式を信託しても、受託者に指示を出す方法(指図権)もありますので、委託者が元気なうちは、委託者の指示に従って受託者に議決権を行使させることも可能です。

わかりやすい家族への信託

わかりやすい家族への信託

酒井 俊行

すばる舎

◎相続の前に、老後の生活をいかにサポートできるかが最も重要 ◎相談に行く前の基本知識 「家族信託ってどんなもの?」という疑問に、スッキリわかりやすく答える本 ◎家族のストーリーをもとに、「家族信託」の検討から設計…

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